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「はい?」 エレオノールの言葉に世にもマヌケな声をあげてしまう育郎。 「だから、私の胸をもうちょっと大きくできないか聞いてるのよ!」 エレオノールは、いわば才色兼備を地で行く女性である。 魔法の腕は言うに及ばず、学問を良く修め、若くしてアカデミーの研究者として その非凡な才を発揮している。容姿に関しても、特殊な趣味の人間でもない限り、 彼女が美しくないと言う者はいないだろう。 無論、それは生まれついての才だけでなく、彼女自身の努力によるものも大きく、 それゆえに揺ぎ無い自信と誇りを培っていた。 だからこそ、とある事を成せぬ理由が 『 結 婚 で き な い 』 のが何故か、彼女にはわからなかった。 ただ単に性格が半端なくきついからだけなのだが、残念ながら彼女はその事に 気付いていない。 己を完璧とまでは言わずとも、そこらの淑女になど劣らぬという自負もある エレオノールにとって、同年代の友人たちが次々と結婚していくなか、一人 取り残されるという現状は耐え難いものであった。 そんなエレオノールであるが、唯一つ、己自身欠点と認めている部分があった。 胸が小さい事である。 どっちかというと、胸がないと言った方が正しい。 となれば、『胸を大きくして』と言うよりも『胸をあるようにしてほしい』と 言う方が正しい表現な気もするが、どうでも良い事なので放っておこう。 と言う事で、バーガンディ伯爵との婚約を解消されたエレオノール嬢にとって、 婚約解消の原因、とまではいわずとも、この…機能的な胸がもうちょっとこう… なんとかなっていたら、なんとかなったのではないかなぁ、そう考えたのである。 もちろん彼女自身も努力をしなかったわけではない。数々の豊胸グッズや 民間治療?を試してきたのだが…当然の事ながら失敗を積み重ねていた。 さすがのエレオノールも諦めかけていたその時、彼女の目の前に長年身体の 弱かった妹を、非常識なまでに健康にした医者が現れたのである。 この男ならなんとかしてくれるのではないかと、一縷の希望を胸に秘め、 婚約解消の傷心の中、エレオノールは恥を忍んで、忍びきれないので酒の力で 勢いをつけて育郎の部屋までやってきたのである。 「あの…そういうのはちょっと…」 が、即座にその希望は潰えた。 「う、嘘おっしゃい!この私の言う事が聞けないって言うの!?」 エレオノールが赤い顔をさらに真っ赤にして育郎につかみかかる。 「別にカトレアぐらいにしろって言ってるわけじゃないのよ!? ちょっと!ほんのちょっとでいいから!」 「お、落ち着いてくださいエレオノールさん! ほら、随分と飲んでるみたいですし」 「それがどうしたのよ!?しらふでこんな事頼めるわきゃないでしょ!」 「むう、やはり駄目だったか…」 扉の前で聞き耳を立てていたヴァリエール公爵が、エレオノールの大声に思わず そう呟いてしまう。一瞬『やはり』とか考えるのは親として如何な物か? と思ったが、それは平民が貴族に言い寄られて恐れ多いから、と無理やり 思うことにする。 「さて、どうするか」 このまま部屋に入っては、下手をすればプライドを傷つけられたエレオノールが あの平民の首の一つでもしめている光景を拝む事になりかねない。そうなれば 責任をとらすどころか、我が娘の凶行を必死で止めねばならなくなる。 となれば暫く様子をうかがう方が良いだろう。もしかすると耐えられず部屋から 逃げ出す平民を捕らえる事ができるかも知れない、そうなればこっちのものだ、 無理やり責任を取らせばよい。 しかし問題がないわけではない。 下手をすればエレオノールが怒りのあまり、あの平民を半殺しどころか全殺しに してしまう可能性も否定できないのだ。 「まあ、その時は無かった事にするか」 「落ち着きましたか?」 育郎はつかみかかるエレオノールを、なんとかなだめて、椅子に座らせることに 成功させていた。 「ええ、落ち着いたわ。だからどうして私の頼みが聞けないか答えなさい」 「いや…そんなこと言われても」 むしろどうして自分が胸を大きくできると確信しているのか、逆に聞きたい ぐらいなのだ。そんな事言われても困る。 「言えないなら私の胸を大きくしなさい」 「………」 どうやら酔いと執念とか渇望とか、なんかそんな物が混ざり合って思考が おかしくなっているようだ。 「そもそもなんでそんなに…その…」 『必死なんですか?』という言葉が出掛かるが、なんとか飲み込む。 「大きくしたいんですか?」 「なんで…ですって?」 ゆらりと幽鬼の如く立ち上がるエレオノール。 「あの…エレオノールさん?」 「そもそも男が胸の大きい娘が好きなせいでしょうが! あんな脂肪の塊の何処がいいのよ!何処のがいいのよ! なんで私には無いのよ!ちくしょう!」 迫り来る拳を見ながら育郎は、『何処の世界でも酔っ払いはたちの悪いものなん だなぁ』などと、何処か諦めながら考えたのだった。
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アルビオンでの戦いは貴族派が勝利した。 それによってアルビオン王国は神聖アルビオン共和国へと名を変えた。 ウェールズの事に関しては、今はトリステイン国が匿っていて、今の所アルビオンが何か言ってくる気配は無いらしい。 ゲルマニアとの同盟も締結され、とりあえず一安心だ。 おれとしてはとても疲れたのでしばらく休みたいのだが生憎ルイズには授業がある。 別におれには関係無いから寝てようと思ったのだがルイズが言うには 「使い魔なんだから一緒に来なくちゃダメ」 だそうだ。でも正直寝ていたい、のでルイズにちょっと聞いてみる。 「おれの有休ってどれくらいある?」 「アンタにそんなもの無いわよ」 使い魔には有休が無いらしい。でも意味が通じたって事はトリステインには有休制度が有るのか? 「そもそも有休って何よ?」 無かった。 「知りもしないのに否定したのかよ!」 「アンタの事だからどうせつまらない物でしょ」 有給休暇はつまらなくなんか無い! 給料の有る休みの幸せをお前たちに分けてやりたいくらいさ! おれは使った事ないけどね。 なんだかんだで授業に行く事になった。 歴史や公民ならともかく、魔法関連の授業に興味は無いのにな。 仕方ないし日当たり悪いけど教室で寝てよう。 教室に入った瞬間、他の生徒達に取り囲まれた。 ヤバイな、何がバレたんだ? 寮の誰かの扉をノックしてすぐ逃げるのを一晩中続けた事か? ヴェルダンデと協力して底に泥水を仕込んだ落とし穴を掘った事か? 広場に一晩で宇宙人に向けてのメッセージを書いた事か? 廊下に有る絵とか像の向きを全部変えた事か? ヤバイな、心当たりが多すぎて迂闊に動けないぞ。 「な、何よ」 そうだルイズ。おれが動くとヤバイからお前が動いてくれ。 「あなたたち、授業を休んでどこに行っていたの?」 なんだ、そんな事か。 焦って損したぜ。何せ心当たりが三桁以上あるからな。 ルイズが適当に誤魔化し、席に着く。 しばらくして妙に機嫌の良さそうなコルベールがいた。 変な物を持ってきてるけどアレが関係してるのか? コルベールはルイズを見つけるとさらに機嫌が良くなった。 「やや、ミス・ヴァリエール。今日からは授業に復帰ですかな?」 「はい、勝手に休んだりしてすいませんでした」 「それはいけない事ですが、今日はとっておきの授業ですからな!今日休まなかったのは良い事ですぞ!」 テンション高いなー、ちょっと休んだ事より今日休まなかった事を良いなんて言ってるよ。 ここはもっと厳しくすべきだろ。当たり前の事で褒めてるとソイツはろくな人間にならないんだから。 さっきも言ったがおれは魔法の技術に興味は無い。 戦闘になったら相手が四系統の内どれなのかなんてのはイヤでも考えなきゃならなくなる。 そのために魔法の種類を覚えようかとも思ったが途中で意味がない事に気づいて止めた。 使用者による個人差が大きいからだ。 たとえば同じゴーレムを作るにしてもギーシュとフーケで差があるように、この魔法はこれくらいの強さ、と決められないのだ。 だから結局は理論よりも、実際に戦ってみての感覚で作戦を立てるしかないのだ。 「さてと、皆さん」 コルベールが授業を始めた。 でも授業なんて聞かないで寝ちゃおう。 ―――夢を見た。 夢の中でおれは暗い所にいて、そこは辺り一面穴だらけだ。 その穴から花京院とアヴドゥルが頭を出しては引っ込みを繰り返している。まるでモグラ叩きだ。 ぴょこ 「久しぶりだな、イギー」 ぴょこ 「ジョースターさん達はDIOを倒したようですね」 ぴょこ 「お前は大変な事になってるようだな、占ってやろうか?」 夢の中とはいえ久しぶりに顔を見れたのはうれしい、だが… 「ぴょこぴょことうるせーんだよ!!」 攻撃する。気がついたらコルベールの持ってきいた変な物を壊していた。 「あれ?」 壊した物はヘビの人形だった。 どうやらコレがぴょこぴょこと音を出してたらしい。 持ち主であるコルベールは何も言わない。言わないというよりは言えない、放心状態なのだ。 「これは、その、ルイズにやれって言われて仕方なく」 とりあえず言い訳してみる。嘘だけど。 「ミス・ヴァリーエール?」 「言ってません!」 ルイズの必死の抗議。 「なんにせよ使い魔の責任は主人の責任だ!」 おれも必死にシャウト。 「イギー!ちょっと黙ってなさい!」 おれはその瞬間ルイズに向かって走り出した。 ルイズには当然何故走りだしたのか分からないので、身構えて目をつぶる。だがそれは失敗だ! おれは身構えているルイズの横を通り過ぎ、窓をザ・フールで攻撃! 窓ガラスを割り、そこから飛び出す。 ザ・フールの飛行形態で緩やかに飛びながら教室を離れる。 その直後に教室で爆発が起きた。 「うわ、スゲー、映画みたいな演出だな」 多分おれの下から見上げた視点が絵になると思う。脱出者の後ろでボーンみたいな感じで。 そういえばルイズのこと主人って言っちゃったな。 責任を押し付けた以上、少しは使い魔らしくするべきだろうか。 思い出す。フーケのゴーレムに潰されそうになる姿を。ワルドの正体を見抜けなかった姿を。 うん、別に主人らしい事なんてされてないし今まで通りで良いな。 To Be Continued…
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「おっ、このパソコン、こんな機能もあったのか」 セワシは画面に映る機能一覧を見て満足そうに笑った。 一番上に表示されている機能は『禁止エリア設定機能』だ。 どうやら次の放送までの間、問答無用で禁止エリアを発動し続けるらしい。 残念ながら1放送につき1回しか使えないようだが。 とはいえ放送は頻繁にやってくるので問題ないだろう。 「ふ~ん、なるほど。「まぁこんな強力なの何回も使われたら問題だしね」 と言いながらも『ハルキゲニア』を『侵入禁止エリア』にする。 今頃そこは死体の山になっているだろう。 ハルキゲニアとやらがどこにあるのかは知らないが。 【二日目・午前十時/埼玉県】 【野比セワシ@ドラえもん】 状態 正常 装備 ノートパソコン@現実 所持品 カッターナイフ@現実 思考 1 取り敢えずゲームに乗っとく ※『禁止エリア設定機能』が使えます 【ジャン・コルベール@ゼロの使い魔 死亡確認】 【マリコルヌ・ド・グランドプレ@ゼロの使い魔 死亡確認】 [死因] 禁止エリアに侵入して爆死 【693@現実 死亡確認】 [死因] タバサに召還されていたらしく爆死 【キバヤシ@MMR 死亡確認】 [死因] ジョゼフ一世に召還されていたらしく爆死<神の頭脳> 【チャモロ@DQ6 死亡確認】 [死因] 聖エイジス三十二世に召還されていたらしく爆死<神の右手> 【阿部高和@くそみそテクニック 死亡確認】 [死因] ティファニアに召還されていたらしく爆死<記す事すらはばかられる> 【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔 死亡確認】 [死因] 2度ある事は3度あるというので3度目の死亡
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ディアボロは歩きながら先程までの会話を思い出す 食事中突然苦しくなったと思ったら目の前にあの小娘だ 「“こんな目に遭いたくなければ使い魔としての立場をわきまえることね”だと、小娘め」 憤然としながら歩いていた為、何かを踏み砕いた事に気が付かなかった (気付いたとしても気にも留めなかっただろうが) 「待ちたまえ」 金の巻き毛をした少年がこちらに向かって声を掛けてきた 「何だ、小僧」 「キミが今踏み付けた壜から足をどけたまえ」 「壜だと」 確かに足の下には砕けた壜の欠片が見える ディアボロはそれを踏み躙りながら言った 「これがどうかしたか」 「足をどけろと言ったのだ、それはモンモラシーから貰った大切な物だ どけなければ彼女と僕を侮辱しているものと受け取るぞ!」 それを聞き一旦は足を持ち上げた、そして思い切り踏み下ろした 顔に向かって手袋が投げ付けられる 「ヴェストリ広場だ!そこで待つ!」 (ふん、決闘というわけか、青っちょろい小僧如きが まあいい、メイジとやらの実力を測るいい機会だ) 手袋を広げながらそう考えたディアボロは近くの人間に場所を聞き、ヴェストリ広場に歩を進めた 一連の様子を影から見ていたルイズはほくそえんだ ディアボロとギーシュの決闘 普通の人間なら大慌てで止めに走るだろうが、止める気は微塵も無い いい機会なのだ 自分が呼び出した使い魔が只の平民等では無い事示すいい機会 ギーシュはドットクラスだがれっきとしたメイジだ それを圧倒したともなれば、召喚したルイズの評価も変わるであろうというものだ 不思議な事にルイズはディアボロがギーシュに負けるとは微塵も考えていないらしい 実力的に隔絶していたとしても勝てるとは限らないのは何度も見ている筈なのにも関わらずである 「ヴェストリ広場」 日中でも余り日が差さぬ中庭で、そうであるが故に決闘がたびたび行われている場所でもある (現在では貴族同士の決闘は禁じられている為、いいとこ生徒同士の小競り合いといった具合だが) 決闘があると聞きつけた生徒達が大挙として押し掛け、広場を取り巻いている その中心で二人の男が対峙していた 「ここに居る全員が立会人だ、君が負けたなら先程の侮辱を頭を下げて謝罪して貰おう!」 「やってみろ、お前の様なマンモーニに出来るものならな」 ディアボロの言葉に激したギーシュは薔薇の花を振るい、一枚の花弁を落とした 花弁から現れた甲冑姿の女性を模した彫像に命じる 「ワルキューレ、あの男を叩きのめせッ!」 ギーシュの声と共に彫像-ワルキューレがディアボロに向かって突進する (ほう、ゴーレムという奴か、だがその程度では話にもならんわ) 「キング・クリムゾンっ!!」 観衆の中に紛れていたルイズはディアボロの傍に立つ異様な人影を見た 身長はディアボロと同じ位、金網状の模様が全身を覆い、額には小さな顔がもう一つ付いている ギーシュも観衆も誰も目を向けてはいない 誰も気付いていない?見えていないのか? ルイズははたと気付いた、 あれこそがあの不可視の人影こそがディアボロの自身の源、自分が感じたディアボロの力なのだと ワルキューレがディアボロに向かって突進する ディアボロがワルキューレに向かって突っ込む 両者の距離が5メートルを切った時 「!? な、何だ、身体が重い! 立っていられないだと! はッ!」 両者がぶつかった鈍い音が広場に響き渡り、気まずい沈黙だけが後に残った ■今回のボスの死因 転んだところにギーシュのゴーレムがぶつかり頚椎骨折で死亡
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「では授業を始める。知ってのとおり、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」 その教師はそう自己紹介をした。 教室中が静かになる。どうにも慕われているというより、嫌われているので目を付けられたくないかららしい。 だがおれにはそんな事関係ない。 おれが考えているのはただ一つ。あの教師の長い黒髪を思いっきりむしりたい。コレだけだ。 前にやったときは頭に飛びついた時点で反撃を受けたからな。 今度は慎重にやる必要がある。我慢だ、おれ。 そんな風に自分を抑えていると、キュルケが立ち上がってギトーに向かって炎の玉を作り出し、打ち込んだ。 俺の獲物に手を出すな! と言いそうになったがその前にギトーが風を起こし、炎の玉を掻き消し、キュルケを吹っ飛ばした。 おいおい大丈夫か?キュルケのヤツ。 それはそうとヤツの武器は風らしい、 風はすべてを吹き飛ばすとか言ってるがそんなのは相性によっていくらでも覆される。 だがおれのザ・フールでは相性が悪いだろう。 この前気づいた事だがスタンドと魔法は相互干渉するらしい、 だから風で吹き飛ばされれば固めてる状態ならともかく砂の状態で操れなくなってしまうだろう。 やはり死角から飛びついて杖をなんとかしてからだろうか。 「もう一つ、風が最強たる所以は…」 お、また一つ手の内を明かしてくれるらしい。風が強くてもコイツはバカだな。 ギトーが詠唱を始め、呪文を唱える。 そしてギトーは分身した。 「うわ、スゲー何アレ?」 おれがつい声をあげると、ルイズに睨まれた。黙ってろって?分かったよ。 ギトーが分身の説明をしようとするが出来なかった。 変な格好の教師が入ってきたからだ。 頭にある金髪ロールの髪、それを見ておれは理性を失った。 「うおりゃああぁぁぁ!」 飛びついてむしる。だが失敗した。頭に飛びついた瞬間その髪がズレたのだ。 新手のスタンド使いか!? そう思ったが違うらしい。ただのカツラだ。 「チクショーーーーー!」 騙された恨みを晴らすべくそのカツラをズタズタに引き裂く。 「あぁ~それ高かったのに~」 情けない中年の声なんか気にしない。 みんなは真似しちゃDANEDAZE♪ ってあれ?教室中が静かだぞ?何で? おれはこの重い沈黙を破る方法を探した。だがおれにはどうしようもない。誰かなんとかしてくれ。 そして動いたのはタバサだった。そのカツラ野郎の頭を指差して 「滑りやすい」 途端に大爆笑が起きる。ナイスフォローだタバサ。 よく見るとカツラ野郎はコルベールだった。髪だけ見てたから気づかなかったが服も変な物を着ている。 具体的に言うとレースの飾りやら刺繍とか、絶対変だ。 「いいセンスだ…」 おいギーシュ、本気で言ってるのか? 「それで?何の用ですかな?ミスタ・コルベール」 「ああ、そうだった。今日の授業はすべて中止です」 歓声があがった。どこの学校でも授業というのは潰れて欲しいものらしい。 「中止の理由は何ですかな?」 ギトーが不機嫌そうに尋ねる。自分の見せ場を潰されたんだし当然だろう。 「本日がトリステイン魔法学院にとって良い日になるからです。何と…」 そこでもったいぶって言葉を切る。 なかなか続きを言わないので煽ってみる。 「早く言えよハゲー」 あ、ヤベ、睨まれた。 「恐れ多くも、アンリエッタ姫殿下がこの魔法学院に行幸なされるのです」 その言葉で教室がざわつく。それに負けないような声でハゲ…じゃなかったコルベールは続ける。 「したがって、粗相があってはいけません。今から歓迎式典の準備を行うので今日の授業は中止」 なるほど、そういうことか。 「生徒諸君は正装し、門に整列する事」 そう言い残してハゲベールは出て行った。 アレ?名前これでいいんだっけ? ルイズにこれから来る姫殿下の事を聞いてみた。必要な事をまとめるとこんな感じだ。 まず名前はアンリエッタと言い、他に兄弟はいないらしい。以上。 名前と他の兄弟の事。大事なのはこれだけだ。 何故かというと他に兄弟がいない、 それはつまりいつかは『王』になると言う事だ。 ここがおれとアンリエッタの共通点。 コイツをどう叩きのめすかが問題になってくる。 そんなワケで敵情視察だ、とは言っても正門にルイズと一緒に並んでみるだけなんだが。 お、馬車から降りてきた。 外見はかなり美人。よし、あれも部下にしよう。 馬車を引いてるのはユニコーンだな。あいつらから聞き込みが出来ないだろうか。 周りの警備は…四方を囲んでいる奴らがいる。けっこう強そうだがおれの敵じゃあないな。 よし、情報集めはこれでいいだろう。 戦闘面ならともかく、今回のような事ではは見るだけで得られる情報は少ないからな。 そう思ったおれは周りの連中の反応を見ることにした。 「あれが王女?ふん、勝ったわね」 胸の事か?おれもそう思うぞキュルケ。 「……」 お前はいつも通りだな、タバサ。 ルイズは…驚いてる?何を見てるんだ? おれはルイズの見ている方向を見る。 おっさんがいた。あいつは誰だろう? その夜。おれがどうやってアイツを蹴落とし、地位を手に入れるかを考えているとドアがノックされた。 初めに長く二回、それから短く三回。 それを聞いたルイズは 「このノックは!?」 ノックだよ。聞けば分かるだろ? 「合言葉を言わなくちゃ」 合言葉?ああそういう合図なのか。 「ノックされてもしも~し」 「ハッピー、うれピー、よろピくねー」 よく分からない合言葉の後、ルイズがドアを開けた。 入ってきたのはアンリエッタだった。 こんな所に王女が来るのは不思議だったが どうにもルイズとアンリエッタは昔馴染みらしい。 さっきから抱き合ったりしている。 そしてふと悲しそうな顔になったが、少しルイズと会話して何かを決意したらしく、何かを話し始めた。 「わたくしは同盟を結ぶためにゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になったのですが…… 礼儀知らずのアルビオンの貴族たちはこの同盟を望んではいません。 二本の矢も束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね。 したがって、わたくしの婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しています。 もし、そのような物が見つかったら…」 「姫様、あるのですか?」 「……はい、わたくしが以前したためた一通の手紙なのです。それがアルビオンの貴族達の手に渡ったら… 彼らはすぐにゲルマニアの皇帝にそれを届けるでしょう」 「どんな内容の手紙なんですか?」 「それは言えません。でも、それを読んだら、ゲルマニアの皇帝はこのわたくしを許さないでしょう。 婚姻はつぶれ、トリステインとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわ ねばならないでしょうね」 「その手紙はどこにあるのですか?」 「手元にはないのです。実はアルビオンに…」 「アルビオンですって!ではすでに敵の手中に?」 「反乱勢ではなく反乱勢と戦っている、王家のウェールズ皇太子が…」 「ウェールズ皇太子が?ではわたしに頼みたい事とは…」 「無理よルイズ。アルビオンに赴くなんて危険な事、出来るわけないでしょう」 「姫様の御為とあらば、何処へでも向かいますわ!このルイズ、姫様の危機を見過ごすわけにはまいりません!」 ルイズがこっちを向いた。 「行くわよ!イギー!」 「え?どこへ?」 つい反射的に答えてしまう。 「話聞いてた?」 「翠星石は俺の嫁、までなら」 ルイズに蹴られそうになったが、そうはならなかった。 ドアから新たな人間が入って来たからだ。 「姫殿下の話を聞かないとは何事かー!」 ギーシュだ。 おれはすぐにデルフリンガーを抜く、するとルーンが光り体中に力がみなぎる。これがガンダールヴの力らしい。 ギーシュから三メイルほどの所で地面を蹴って飛び上がり、頬を蹴り込む。 「必殺!デルフリンガーキック!」 「おれ関係ねー!」 デルフの残念そうな声を聞きながらギーシュが倒れるのを見届ける。 だがギーシュは立ち上がってきた。もいっぱつ蹴ろうかと思ったがルイズの声が先だった。 「ギーシュ!今の話を立ち聞きしてたの?」 ギーシュはそれを無視してアンリエッタに話しかける。 「バラの様に見目麗しい姫様のあとをつけてみたらこんな所へ…そして様子を伺えば何やら大変な事になっているよう で…」 そういって薔薇を振り、ポーズをとりながら次の言葉を言った。 「その任務!このギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 図々しいヤツだ。 「グラモン?あの、グラモン元帥の?」 「息子でございます。姫殿下」 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「任務の一員に加えてくれるのならこれはもう望外の幸せにございます」 どうやらギーシュも参加するらしい。 おれも乗り気になっていた。 その手紙をおれが回収すれば何らかの切り札になるかもしれないしな。 To Be Continued…
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東北地方>岩手県が登場する漫画・アニメ 岩手県 とりぱん 盛岡市 いぬかみっ!
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ゴーレムの肩に乗ったフーケは少しばかり焦り始めていた。 宝物庫の壁が壊れない。確かに硬いと思っていたがここまでとは。 細かなヒビが入っているようだが、一向に崩れる気配が無い。 やはり強攻策に出るのはまずかったかもしれない。もうそろそろ音に気づいた教師や生徒が現れるころだろう。 だが、ここで退いては『破壊の杖』を諦めることになってしまう。 (『破壊の杖』を盗む、自分の命も守る。両方やらなくちゃならないのが「盗賊」のつらいとこね) フーケが覚悟を決め、もう一発殴ろうとゴーレムを動かしかけた時、辺りが急に暗くなる。 上を見上げるとウィンドドラゴンが飛んでいるではないか。 (早いじゃないか!) 予想よりもずっと早い敵の出現。しかもドラゴンときたもんだ。どうもこの学院とは相性が悪いらしい。 「サバス!捕まえなさい!」 姿は見えないが、ウィンドドラゴンの背中に誰か乗っているのだろう。 その誰かが「サバス」に自分を捕まえるよう指令を送っている。 とっさに思いついたのは、このウィンドドラゴンが「サバス」だということ。 急降下してそのまま自分を捕らえる気か?身構えたそのとき、横から声が聞こえる。 「お前には選ぶべき道がある!」 ありえないことだった。ゴーレムの肩に自分以外で乗っている奴がいる。 声のした方を向く。 そこにいるのは、昼間に会ったばかりの謎の「変態」! 百戦錬磨のフーケの体が固まる。 変態が口を開けると、その中から一振りの剣が出てきた。その切っ先は真っ直ぐフーケに向かっている。 「いまさらだけどおでれーた。俺をこんな風に使う『使い手』は初めてだわ」 さっきとは違う軽い口調が変態から聞こえた。 攻撃するか、逃げるか。一瞬の迷いがフーケに生まれる。 それが命取りだった。 「つかんだ」 変態がいつの間にか目の前にいる。その両手はフーケの肩を力強く押さえ込んでいた。 この時点でやっと「逃げる」という選択肢を選んだのだが、時すでに遅し。 体がピクリとも動かない。 ジリジリと仮面のような顔が近づき、口が開かれる。 「そうだ相棒!スピードは出さず!ただしッ!『万力』のような力を込めてッ!」 口の中から剣がフーケに向かって伸びてくる。 剣が自分の顔にゆっくりと刺さっていくイメージが浮かぶ。それを振り払うように、フーケは腹の底から叫んだ。 「うわああああああああああああ!!ワーーナビーーーーーーーー!!」 叫びに応えるように、ゴーレムが暴れ始める。 「ふんばれ相ぼォォォォォォ!?」 「!!」 フーケが体を捻る(といってもほとんど動かなかったが……)。 変態の口から飛び出た剣が頬をかすめて飛んでいく。剣はそのまま地上へ落下していった。 「扱い酷くねェェェーーッ?」とか聞こえた気がするが…………気のせいだろう。 問題はこの目の前の変態だ。これだけゴーレムが暴れてるのに、少しも慌てる様子がない。と。 「フガッ!」 間抜けな悲鳴を上げながら変態は突如フーケの目の前で「爆発した」。 フーケは急に体が軽くなるのを感じ、素早く後ろへ飛び間合いを作る。 「ちょっと!ルイズ!自分の使い魔を攻撃してどうするのよ!」 「ちちょっと間違えただけよ!もう一発いくわ!」 さっきよりも派手な爆音が響く。フーケが音のした方を見ると、さっきまでゴーレムで殴っていた壁から煙が上がっている。 フーケは今度は一切の迷いなく、そこへ飛び込んだ。 そこからの行動はまさに一流の盗賊といえる素早さで、目的の『破壊の杖』を見つけ出し、犯行声明を壁に刻む。 外を見るとゴーレムが炎に包まれている。 どうやらウィンドドラゴンに乗ったメイジたちは、フーケが宝物庫にすでに侵入していることに気づいていないらしい。 フーケがニヤリと笑うと、ゴーレムが歩き出す。それを追いかけてウィンドドラゴンが宝物庫から離れていく。 いろいろ予想外の展開はあったが、最終的に勝てばよかろうなのだァァァァァッ!! フーケはちょっとハイになりながら、宝物庫から飛び降りた。 ルイズたちはシルフィードに乗ったまま巨大ゴーレムの後をつけた。 その間にずっとキュルケの炎、タバサの氷柱、ルイズの爆発がゴーレムを攻撃する。 しかしそれら全てを受けてもなお、ゴーレムの進行は止まらない……。 と、急にゴーレムの足が止まる。 そしてそのまま崩れていき、後には大きな土の山だけが残った。 「…………フーケは?」 「いないわね…………」 「逃げられた」 呆然とする少女達を二つの月が見下ろしていた。 学院からちょうど馬で4時間。 フーケはあらかじめ見つけておいた小屋が見えてくると、やっと一息付いた。 追っ手が来ている気配は無い。 小屋の前に馬を繋ぐと、さっそく盗み出した『破壊の杖』を手に持ってみる。 杖というには変わった形状と、見たこともない金属。 とりあえず杖を両手でしっかり握ると、愛用の杖にするように振ってみる。 …………何も起きない。 もう一度振ってみるが、うんともすんとも言わない。 大爆発が起きるのではないかという不安と期待があったのだが、肩をすくめる。 次に関連のありそうな魔法をいくつか唱える。 唱えるたびにドキドキするが、どれも反応は無い。 フーーと深い溜息をすると『破壊の杖』を地面に置く。さすがは秘宝といわれるアイテム。そう簡単に動かないらしい。 だが、そう簡単に諦める訳にはいかない。 …そう言えば、こういうのに詳しそうなハゲが、困った時は叩いてみるのが秘訣とか言っていたのを思い出す。 試しにショックを与えるために叩いてみる。動かない。今度は踏みつけてみる。動かない。グリグリしてみる。動かない。 なじってみる。動かない。なじりながらグリグリ踏みつけてみる。動かないが、少しイイ気分になった。 だが結局『破壊の杖』に変化は見られなかった。 しかたなくフーケは『破壊の杖』を持って、小屋の中に入っていった。 さて、これからどうするか。使い方が分からないことには先に進まない。 これらのマジックアイテムに詳しい人間は誰だろうと考えて、真っ先に浮かんだのはトリステイン魔法学院のメイジたちだった。 もう一度現場に戻るのは危険だが、まだ誰もミス・ロングビルと『土くれ』のフーケを同一人物と知る者はいないだろう。 そこで何食わぬ顔で学院に戻り、フーケを見つけたと言ってこの小屋のことを教える。 オールド・オスマンの性格からして、王室には頼ることはまず無いと考えられる。すると学院内から捜索隊が組まれるはずだ。 口ばかりの教師陣からして、それ程多くは選ばれまい。2~3人程度だろう。 それぐらいの数なら、あのレベルのメイジが束になってもどうにかできる自信が、フーケにはあった。 トライアングルだなんだ言っても、実戦経験が彼らには無さすぎるのだ。 肝心のところで尻込みしてしまう。……さっきの自分自身のように。 (結局、あいつらはなんだったんだろうね) あの不気味な姿を思い出して、すこしブルーな気分になる。 あのとき、謎の爆発が無ければ自分はどうなっていたことか。 先刻の戦いで何もできなかったことは、それなりにフーケのプライドを傷つけていた。 『破壊の杖』をしまう為に、チェストを開けながら回想を続ける。 冷静になって考えれば、あれはウィンドドラゴンの上に乗っていた誰かの使い魔なのだろう。 あの謎の爆発の魔法もそうなのだろうが……あんな魔法を使えるのは一体誰だ? 深く考えながらも『破壊の杖』をチェストに置く。そして、しまおうとしたその時…… カタ! (追っ手か!) 音がしたほうに杖を向ける。 が、風によって窓が揺らされただけだと分かり、ホッと杖を下ろす。 今回の仕事は危険で奇妙な事が重なり、少し神経質になりすぎているのかもしれない。 (今夜は月が明るいねぇ) 窓から外を眺めるフーケを双月が優しく照らした。 ふと、フーケはある少女の事を思い出す。今頃元気にやっているだろうか。 月の中に彼女の笑顔が浮かぶ。 だが、雲によって月が隠れたことでその幻影も消えた。 ……少し感傷的になっている自分に思わず苦笑する。 冷静にならなくては。本当の勝負は明日だ。今は疲れを少しでも取らなくてはならない。 とりあえず今は「追跡者」は存在しないんだから………… しかし、それは大きな勘違いだった。 主の命令を聞き、愚直なまでに行動し続ける者がいた。 それは巨大なゴーレムに目もくれず、ただ盗賊の後を追い続けていた。 森の木々の影の中を、音も立てずに這いずり回る。 ブラック・サバスは小屋のすぐ側まで来ていた。目的はあの中にいる。 だが入るためには影が足りない。だから待つ。機会が来るまでひたすら待つ。 そのとき風が吹いた。小屋の窓がカタカタと鳴る。 一瞬、本当に一瞬月が雲に隠れる。 それだけで十分だった。ブラック・サバスはすでに小屋の側から、小屋の中へと侵入していた。 フーケの叫びが夜の森にこだまする。 深夜の第2ラウンドが始まった。
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前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~ 空、双子の月。 翡翠の瞳は確かにそれを捉えていた。 「ここは……?」 覚醒する意識、広がる視界に捉えたそれに呟く。 見たことの無い景色、最初に浮かぶ思考はそれ。 「起きたのね」 声、向ける瞳、そこには月光に照らされる桃色の銀髪の少女。鳶色の瞳が九朔を見ている。 「誰だ?」 「私はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。あんたを召喚したご主人様」 「主人、だと?」 軋む体、ゆっくりと起き上がらせると世界は転回、視界と水平になる。 虫の鳴き声、静かな草原がそこに在る。 そして膝を抱えて座り、自分に相対する少女。 「そうよ、私はアンタを『サモン・サーヴァント』で呼び出して『コントラクト・ サーヴァント』で契約したの。 つまり、アンタは……正直認めたくないけど私の使い魔ってこと」 ルイズはその表情を苦々しいものにして九朔を見ている。 「どういうことだ?我は確かにさっきまで……っ!?」 そこまで口に出して九朔の思考は停止した。 背筋に走るのは戦慄、永遠にも思える一瞬が過ぎ去り認識した 事項が九朔の中を通り過ぎる。 ――何も思い出せない 馬鹿な、そんな想いが胸を駆け抜けるが落ち着かせる。思考を奔らせ自分が持つ情報を 出来る限り引き出す。 自分は『大十字九朔』、騎士である、以上。 生活の事やらなにやらは思い出せるが、自分にとって重要であると確信できる 場所がぽっかりと脳内から抜け落ちている。 それはまるで書物からぺヱジを引き千切ったように完全にだった。 「馬鹿な……!」 更に口に出して絶句する。 どういうことだ、自分はいったいどうなったのだ? 混乱する思考にパニックを引き起こしそうになる。 だが、 「―――あんた、何者よ?」 覗き込んだ少女の鳶色の瞳が合い、現実に引き戻される。 「……何だと?」 「だから、何者って聞いてるの」 「我は…………分からぬ」 「え!?」 「思い……出せぬ」 鳶色の瞳が驚きに見開く。 「記憶喪失なの、あんた?」 「みたいだ。だが、ここではない場所から来たのは分かる」 「じゃあガリアとかアルビオン出身なの?」 思考を巡らす。 「否、そのようなところではない。我は……我がいたのは………っ!?」 酷い頭痛が九朔を襲った。 めまぐるしく移り変わる映像、脳内に情報の奔流が迸る。 フラッシュバックした映像群は暗転し、その中の幾つかが残る。 映像→情報、一つの型に当て嵌まるようにそれは構築されていく。 ノイズ消去、合致、ノイズ消去、合致、繰り返される反復動作。 完成されるそれ、一個の情報体として脳内にインプットされる。 「アーカム………シティ」 「アーカムシティ? 聞いた事がないわね」 「今浮かんだ言葉だ。恐らく、そこが我のいた場所だ」 「どこかの田舎とかじゃないわよね?」 「違う、田舎などではない」 聳え立つ摩天楼、夜のない街、時計塔、繁栄のるつぼ。浮かぶ其の映像はゴシックであり レトロ、そしてモダン。到底田舎といえるものではない。 「そんなの聞いた事ない。『マテンロー』ってなに? 街の事?」 「違う、天を突くほどの高さを持つ建物の事だ」 「それってつまり空に浮いてるってこと? アルビオンのお城みたいに」 「空には浮いておらん、ただのビルだ」 「ビル? 何それ」 「コンクリートで造られた建物だ」 「????」 質問をするたびにルイズの頭には疑問符が連続して浮かぶ。目の前の自分と変わりない 少年の言うことは理解の範疇を超えたものばかりだ。 互いに質問を何度か繰り返し、ルイズはその情報をまとめてみる。 「要するにあんたは別の世界から来たけど自分のことが分からないってところで いいのかしら?」 「まあ、大体そんなところだな」 そもそもこんな風に月が二つもある場所など見たことがないしな、そう付け加えて 九朔は頷く。 「信じられないわね。荒唐無稽すぎて笑い話にもなんない」 抱えていた足を放り出し、溜息をつくルイズ。 「それはこちらの話だ。使い魔だの、貴族だの平民だの、我の知ったことではない。 それにそもそも、我は汝の使い魔になる気など毛頭ないしな。 帰り方は分からぬようだが、なに、自力で探すとするさ」 それを聞いてルイズの表情が一変する。立ち上がり、九朔に詰め寄る。 「ふざけないでよ! あんたと私は『契約』したのよ?!」 「契約を取り消せばよかろう?」 先ほど手袋の下を見た時にあった謎の文字をルイズに見せ付けるように示す。 「無理よ、あんたの左手の甲に刻まれたルーンだけど消せないから。 あんたが死ぬまでずっとね」 「なっ!?」 頭を鈍器で殴られたような衝撃に九朔は顔をゆがめる。 「それは何か? 寝ている間に為された契約は取り消せず、しかもお前のものは俺のもの 俺のものは俺のもの、そして我は生涯汝の物だとでも言う気か?!」 眼前にまで詰め寄っていたルイズを九朔は睨みつける。 「し、仕方ないじゃない、使い魔の契約ってそんなものなんだから! それに、元々 『サモン・サーヴァント』の呪文はあんたみたいに人間を呼び出す呪文じゃないもの! それにそれに………ファ、ファーストキス………だったんだから!」 あの時は捨て鉢になってしてしまったキスだったが、今更に思い返すとやっぱり ファーストキス、恥ずかしくないわけがない。 おまけに目の前のこの少年、よくよく見るとかなり綺麗な顔立ちだ。 清く正しく女子である自分よりも充分に女の子っぽい顔のつくりをしている。 睫毛はすらりと伸び瞳の色は澄んだ翡翠、蒼銀の髪は月光で仄かに煌めき背まで伸ばした それはリボンで編まれていたりする。 確信する、これを解いて女装とかさせたら絶対大概の女子は敵わない。 そんな彼である、キスの恥ずかしさが嬉しさも相まって3倍だったりして顔を逸らしつ 上目遣いに九朔を見たルイズだったが、 「キスなどどうでも良いわ!」 どうでも良い扱いで斬捨てられた、これは酷い。 「まあ、契約を履行する必要はないからどうにでもできるとしてだ。だが、動物などを 呼び出すはずの呪文が我を呼び出しただと? つまりは何だ? どういうことなのだ? 我は何か? 只の動物か? 犬か? 狗か!? 南米あたりのホテル最上階、スイートルームに突撃したが駆逐されるようなただの 走狗だとでも―――」 「う……うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああい!!!!」 怒髪天であった。 それは不退転の心意気をも仏契(ぶっちぎ)る劫火の憤怒である。 顔を朱で塗った様に赤くし、、仁王立ちになり、九朔を悪鬼の形相で睨みつけた。 「わわ、私のファーストキスだったのよ!?そそそ、それをどうでも良いですって!? ふざけないで! ええ、ええ、ふざけないでちょうだい! そもそもアンタなんか行く当ても帰り方も何も分からないくせに! 勝手に行ったところで野垂れ死によ、ええ、野垂れ死に!」 矢継ぎ早に思いつくままに叫ぶルイズ。其の顔は恥ずかしさやら何やら入り混じって 真っ赤になり、小さめの可愛い口は怒りでわなわなと小刻みに震えている。 「いい、良いわ! 行ってみなさいよ、ええ、行っちゃいなさいよ! 行って野垂れ死ぬが良いわ! 別の世界から来たとか言ってたしここの常識なんて どうせ知らないわよね? ああ、だからきっと野宿だわ! きっと長続きしない! すぐにひもじい思いをして後で後悔するのよ! あああそうよね! 私のファーストキスをどうでも良い扱いしたもの!」 「あー……汝、そんなにファーストキスが大事だったのか?」 余りの怒気に呆気に取られた九朔だったがそれだけ言ってみる。 「誰が! アンタみたいなの勘定に入らないわ、使い魔だもの! けど、あんたのした 行いは許せない、許さないんだから!」 やっぱりファーストキスが大事だったんじゃないのかと思う九朔ではあるがあえて言わない。 こういう手合いは怒らせるだけ怒らせて自然鎮火させるのが良いと何故か魂のうちに 理解していた。 それから延々と思いつくままに数分の間怒りの言葉をぶつけるルイズであったが、それも 流石に疲れたのかおとなしくなる。 「はぁ……はぁ………」 「気が済んだか?」 「うるさい……」 立ち上がり、膝をついて息を切らすルイズに肩を置こうとする九朔であったが拒絶される。 まあ、己のファーストキスを奪った相手に気を使われるのは厭なのだろう、 合点し座りなおそうとする。 と、 「ん?」 座ろうとした先で何かがうごめいた。 それは良く見ると、 「てけり・り?」 なにやらぶるんぶるんと悶えるスライムっぽい生き物で、悪夢めいた感じに蠕動を 繰り返しつつも愛らしさのある赤っぽい何かであった。 それはいわゆるショゴスと呼ばれる「古のもの」に使えていた奉仕種族の一つで、 彼の母親のも同じものを従えているのだが、それはまた別の話。 「誰だ、汝?」 「てけり・り」 ぴよんぴよんと跳ねて九朔の足元にやってくる。 見た事の無い生き物だが、なかなかに愛くるしい姿である。 「……何それ?」 一息ついて落ち着いたルイズが疲れた顔でこっちを見ていた。 「さあな。ランドルフと此奴は名乗っておるが」 「何言ってるか分かんないんだけど………」 「てけり・り」 ルイズがそれを見ると、体の真ん中と思しき場所にある眼がくりんと愛らしく ウインクした。 蠕動が悪夢めいてて不気味なのだが、結構可愛いかもしれないと思うルイズ。 「てけり・り」 「ふむ、汝も記憶喪失なのか」 「てけり・り!」 片膝をつき、その触手でジェスチャーする不可思議物体と会話する九朔、ルイズのことは 既にアウトオブ眼中である。というか、何言ってるか分からない。 「てけり・り」 「ふむ、汝もアーカムシティを知っておるのか」 「てけり・り」 「そうか、汝も我と同じだな。同士と呼ぶべきか?」 「てけり・り!」 「ははは」 まるで竹馬の友とで言うような親しみで触手と握手する九朔。なんだか、不気味なような、 何処となく背徳的で官能的なような。 「ねえ、ちょっと」 「ん、何だ?」 「てけり・り?」 同時してこちらを向く一人と一匹、いや、一つ? 一羽? 一スライム? まあ、どうでも良い。 「結局、あんた行くの? 行かないの? はっきりしてよ」 意訳すれば『行かないでほしい』、である。 実際行ってしまえとか色々言ったが九朔に行かれてしまったら今度こそ、それこそ本当に メイジとして自分は失格になってしまう。 それに付け加え、『ゼロ』のあだ名に更にいらぬ屈辱的二つ名が其の前に添えられる事に なる。 それは厭だ。 だから彼を引き止めたいのだが、生来の性格ゆえに素直に目の前の少年に残ってください的な ことが言えない。 「ん、確かに我には行く当ても路銀もないしな」 「じゃ……じゃあ、私の使い魔として働く?」 「てけり・り」 「ふむ。ランドルフもそう思うか?」 「てけり・り」 人外との会話の方が重要度高しとでも言うのか、どうにか切り出した提案を無視され カチンとなるルイズ。 だが耐える、眉を逆ハの字にしたいのを堪える。 「で……ど、どうする?」 「そうだな、情報を集めるまでの間厄介になるとしよう」 「てけり・り」 どうにか使い魔として残ってくれる決断をしてくれたようだ。 内心万歳をしたいルイズであるがそこはそれ、彼女の素直でないところである。 「だ、だったら仕方ないわね。本当なら許さないところだけどさっきまでのあんたの失礼な 物言いは許してあげる。今日からあんたは私の使い魔、それとそこのぷにぷにもよ。 私のために色々してもらうんだから!」 ふん、と鼻を鳴らして腕を組み、見下ろすように言うルイズ。 それに肩をすくめる九朔であったが、とにかく全て良し。 * それから数時間後、学院に戻ったルイズは夜食も出る時間でないと分かるや否や服を 脱ぎ捨て眠ってしまった。 晩御飯食べたかったな、と呟くそこに恨めしげな何かが含まれていたがそれはあえて無視した。 「ふむ」 双子の月明かりの差し込む窓際で九朔はランドルフが変形したベッドに横たわっていた。 彼(一応の性別だが)曰く、自分はベッドになったり浮き輪になってた気がするらしく、 記憶を取り戻すために九朔にそうやって扱って欲しいと言われての事であった。 実に健気である。 「てけり・り」 「ああ、我が一体何者だったのか考えていたのだ」 「てけり・り」 慰めるように触手が九朔の肩を叩く。 「はは、汝は優しいのだな」 「てけり・り」 「ん?ああ、あの娘か………たしかに、困った主人だな」 あどけない寝顔を向けるその少女、言い草は傲岸不遜極まりなく聞けば貴族という、 自分たちのいた世界では霧が立ち込めるあの国ぐらいにしかいないような階級に いているそうな。 しかし、そんな階級にいるにしては年相応の少女の反応を示すあたり悪い人間ではないようだ。 ファーストキスであそこまで怒り狂うのだ、可愛いものである。 だが彼女がそうであったとしても、ここがろくでもない世界であるのは間違いない。 現に自分の記憶にあるあの国はそういった種類の人間が多いから容易に推測できる。 「てけり・り」 「ん?我の反応が子供らしくないだと?」 「てけり・り」 「そうだな、確かに不思議なことばかりだ。それに……我自身も記憶を失っている」 そう、自分は記憶喪失だ。 自分に関しての記憶がごっそりと抜け落ちている。 なのに、いったいどうしてかそんな状況であるにも拘らず自分は厭なくらいに落ち着いて しまっているのだ? 思い出せない今、それを考えても仕方ないのだが。 「てけり・り」 「ああ。明日は我等に起こせと言っておったな。だが、着替えの手伝いはしなくても良いから 掃除と雑用、洗濯物を運んでおけとは。普通は全部一人でしないか?」 普通は当たり前である。だが、貴族である彼女は普通は何もしないのが当たり前である。 なのに彼女が着替えの手伝いをさせず、それだけに終わったのはひとえに彼の顔が女性に 匹敵する程の可愛さがあってのこと。 だが、それが時に悲劇を生む事を彼はまだ知らない。 「てけり・り?」 「ふむ、そう言えばそうだな。女子(おなご)の生活の面倒を見るのに何故だか余り 嫌悪感がない。もしかすると、こういった事に慣れておったのかもな」 実は結構当たっていたりするのかもしれない。なぜなら彼の半身は常時下着のような 服装かつ、三十路を過ぎた彼の保護者はパッツンパッツンのミニスカートで総司令を しているのだから。 「てけり・り」 「そうだな、明日も早い。今日は寝るとしよう」 そんな年相応でない彼も半分は人の子、ルイズからもらった毛布を 羽織り眠りにつく。 ランドルフもその不気味だが愛くるしい瞳を体の中に沈める。 真っ暗な部屋に三者三様の寝息が満ちる。 前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~
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シエスタと一緒に城下町へと出かけた日の夜、夕食が済むと、シンジはロングビルと名乗るオスマンの秘書に声をかけられ、学院長室まで案内されることになった。 その理由が気になったルイズはロングビルに同行を求めたのだが、丁重に断られた。 ルイズはシンジの袖をひっぱると耳元で囁いた。 「あんた、何かやったの…?」 しかし、シンジには心当たりがない。 「いえ、特には何も…」 だから、そうとしか言えなかった。 ロングビルの後を追いながら、色々と考えてはみたものの、やはり何も思い当たらない。 学院長室前に着くと、その扉をロングビルがノックした。 「オールド・オスマン。ミス・ヴァリエールの使い魔を連れて参りました」 「入りたまえ」 扉の向こうから、老人のものと思われる声が聞こえた。 ロングビルは扉を開くと、シンジに入室を促した。 「どうぞ、お入り下さい」 扉をくぐると、一匹の鼠と戯れる老人の姿があった。 「ミス・ロングビル。君は下がりたまえ」 「かしこまりました」 扉が静かに閉められる。 オスマンは鼠の喉元を指先で撫でながら言った。 「急に呼び出してすまんね、碇くん。さ、その椅子に座りなさい」 どうやら、このオスマンという老人、ルイズよりは、よっぽど人格者のようだ。【椅子】という単語が口から飛び出ただけでシンジはそう決め付けていた。 指示通り椅子に腰掛けると、シンジは口を開いた。 「あの、ぼく何かやりましたか?」 「何かやったのかね?」 「いえ、ただルイズさんが心配してたので…」 オスマンが微笑みを浮かべた。この老人は、笑うとシワだらけの顔にさらにシワが増す。 その様子が可笑しくて、シンジも微笑んだ。 「今日、君を呼出しのはいくつか君に聞きたいことがあったからじゃ」 「ぼくにですか?」 「さよう。あのオーガのことなんじゃが…」 「…オーガ?エヴァ…、のことですか?」 オスマンの眉がかすかに動いた。 「きみはアレをエヴァと呼ぶのかね?」 「ええ。正式にはエヴァンゲリオンと呼ばれてますけど」 「エヴァンゲリオン…、なるほど。あれの出生をきみは知っているのかね?」 「詳しくはわかりません。ただ、人から聞いた話しだと、15年の歳月をかけて造られたとか」 「造られた…!?誰に?」 「科学者の人達ですけど」 「カガクシャ?」 「あぁ、この世界で言うなら、メイジの様な人です」 鼠を撫でていたオスマンの指先が止まった。 「人?人がアレを造り出したのかね?」 「ええ」 「何の為に?」 「使徒に対抗する為です」 「シト?」 「僕が住んでた世界で、人類の天敵とされていたものです。ぼくの知人は、使徒を滅ぼさなくては人類に未来はない、と言ってました」 オスマンの目が見開かれた。 「もしや…、そのシトとは、【アダムより生まれし者】ではないかね…?」 オスマンの言葉を聞いたシンジは呆けた顔をした。 「なんで、知ってるんですか?」 「いや、なに。たまたまじゃよ」 それは、実に苦しい言い訳だった。しかし、シンジがそれ以上追求することはなかった。単純に、不自然な会話の流れに気付いていなかったのだ。 「大丈夫ですか?汗、すごいですよ?」 「もう歳でな、いつものことじゃ。それよりも、きみにお礼をしなくては」 「はい?」 「有意義な時間を過ごせたお礼じゃよ」 「ぼく、5分もいないですよ」 「十分じゃよ。そうだ、きみに良いことを教えよう。きみの左手に刻まれたルーンのことなんじゃが…」 オスマンはシンジの左手を指差すと、言葉を続けた。 「それはこの世界で伝説となっている【ガンダールヴ】のルーンなんじゃ。【ガンダールヴ】は我等の世界で絶対とされる【始祖ブリミル】の使い魔であった。その上、ありとあらゆる武器を使いこなし、千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持っていたそうじゃ」 しかし、シンジは、はぁ、と気の抜けた返事をするだけだった。 「お驚かんのかね?」 「ぼく、この世界の武器なんてろくに使えませんよ」 「そうか、きみは何も知らなかったんじゃな。使い魔は、主人となる人物と契約する際に特殊能力を得ることがあるんじゃよ」 「特殊能力?」 「そうじゃ。例えば何にも変哲のない黒猫を召喚したとするじゃろ。そうすると、人の言葉をしゃべれるようになったりするんじゃ」 「ぼく、猫じゃないですよ」 オスマンが再び微笑んだ。 「きみは純真無垢な子じゃな。まぁ、とどのつまり、人間を使い魔にした例なんて古今東西どこにもないんじゃ。つまり、きみの体に何が起きてもおかしくはないということじゃ、わかるね?」 「まぁ、なんとなくは…」 「よろしい。それとじゃな、碇くん、今の会話については、他言をしてはいけない」 「なぜです?ルイズさんにもですか?」 「さっきも言った通り、きみのルーンは伝説の【ガンダールヴ】と同一のものなんじゃ。それが露呈したら、王室のマッドメイジ共はまず間違いなく、きみの体をいじくりまわすじゃろう。手足を切断されたりするかもな」 「な、なるほど…」 ようするに、マッドサイエンティストということか。 「今夜は貴重な時間をありがとう。ミス・ヴァリエールの元に帰りなさい」 「はい、失礼します」 シンジが部屋から去ると、オスマンは窓の外に浮かぶ二つの月を睨んだ。 「第一始祖民族め…。どこの星でも同じ事をさせているのか。苛烈な生存競争の先に、一体、何があると言うんじゃ…?」 シンジが退室してから程なくして、学院長室にオスマンのお認め印が必要な重要書類の束を抱えたロングビルが訪れた。 「何もこんな遅くにやることもなかろう…」 オスマンは目の前に置かれた大量の書類にうんざりしてぼやいた。 「明日にでも、王室へ発送しないと間に合わないのです。オールド・オスマンが日頃から熱心に業務を執り行っていたら、こんなことにはなりません」 秘書の手痛い厭味に顔をしかめたオスマンは引き出しから印鑑を取り出すと、いかにも気が進まないといった様子で、書類にそれを押し始めた。 書類の内容に目を走らせてる様子は全くない。 だからといって、ロングビルはそれを咎めることをしなかった。お認めさえ貰えれば、後の事はどうにでもなるということだろう。 オスマンは印鑑を押す行為にもすぐに飽きた様で、前触れもなく突飛なことをロングビルに聞いた。 「きみはアダムとリリスがその関係に終止符を打った理由を知ってるかね?」 この老人は、たまに妙なことを口走る。日頃の付き合いから、ロングビルはそのこと知っていた。 「いえ。存じ上げませんが」 「アダムとリリスは神に遣わされた最初の人間だ。アダムは最初の男で、リリスは最初の女、そして二人は最初の夫婦でもあった」 「で、離縁した理由はなんですの?」 「セックスじゃよ」 ロングビルは露骨に眉をひそめた。 「セクハラが目的のお話でしたら、お断りします」 「いや、真面目な話しだよ。アダムは正常位を望み、しかし、リリスはそれを拒んだ。彼女は騎乗位の方が自然だと考えたんじゃよ。例え快楽に酔いしれる為の一時でも、相手より下の位地にはありたくない。 つまり、お互いに自分こそが上位に立つべき人間だと思い込んでいたんじゃ。人の傲慢な心というのは、そんな昔から、すでに芽生えていたんじゃよ」 オスマンの表情が変わった。いつになく真剣な目である。 「それが我々現代の人類にも脈々と受け継がれている。戦争が絶えないのも、当たり前だ。おまけに神様気取りの人間まで現れる始末じゃ。いやはや、世も末だよ。そうは思わんかね?」 「どうでしょう。でも、とても興味深い話しですわ」 ロングビルがこの部屋に来てから、初めて微笑んだ。 「どうじゃ、これから一杯ひっかけんかい?話しの続きをしようじゃないか。それに、以前、きみと呑んだ旨い酒の味が忘れらんのじゃよ」 「あら。でしたら、早く書類を処理なさらないと…」 オスマンの印鑑を押すスピードがあがった。 この女、なかなかの悪女である。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 初号機に宿る【彼女】の魂は日を追うごとにコアの深部へと沈んでいった。 【彼女】の目的は、あくまでも、【サードインパクト】の阻止。つまり、使徒の殲滅にある。 この世界において、【彼女】のレゾンデートル(存在理由)はどこにもないのだ。 その為、【彼女】の魂は閉塞された。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ トリステインに召喚されてから、一ヶ月。 シンジの一日を紹介すると、こんな感じである。 まず、世の中のほとんどの生物がそうであるように、朝起きる。寝床は相変わらず床ではあったが、ルイズの計らいで、今では寝具一式が用意されていた。つまり、畳の上に敷いた布団と思えば、何の不満もないのだ。 ちなみに早起きのシンジはルイズを起こさなくてはならない。 ルイズは起きるとまず着がえを始める。彼女は下着だけは自分で付けるが、制服はシンジに着させるのだ。最初こそは気恥ずかしい作業であったが、慣れてしまえばどうということもない。 そして、共に朝食をとると二人は別れる。 ルイズは学院の授業に赴き、シンジは掃除、洗濯にはげむ。 それが終わるとヴェストリの広場に擱座する初号機の点検が待っている。もちろん、この点検は整備を前提としたものではない。 最近になって、初号機に悪戯書きをする生徒が急激に増えているのだ。 その理由は学院に広まった性質(たち)の悪い都市伝説にある。 【勇気をもって、あのオーガに想い人の名前を書き記すと、その想い人とは必ず結ばれる】 その為、初号機には、生徒たちの実名が溢れ始め、シンジが仕方なくそれを雑巾で拭うのであった。 それを終えると、厨房に向かいシエスタを含むトリステインの使用人達と雑談をする。 夕暮れになって、ルイズと合流し、夕飯を頂き、しばらくは彼女の遊び相手になり、寝る。 それが、シンジのサイクルだ。 しかし、ある日を境にちょっとした変化が訪れた。 初号機の側に寄ると、彼の左手に刻まれたルーンが発光するようになったのだ。 「大変です!」 学院長室の扉が勢いよく開けられ、コルベールが躍り込んだ。 「きみは、いつまで経ってもノックを覚えないんじゃな」 「そんな場合ではありません!エ、エヴァが活動しています!!」 しかし、オスマンはその言葉に全く動ることなく、ふむ、とだけ呟くと、杖を降り例の鏡でヴェストリの広場の様子を覗きこんだ。 そこには緩慢な動作で歩行をする初号機と、その足元で驚愕の表情を浮かべるシンジの姿があった。 「ようやく、そこまで至ってくれたか…。全く、やきもきさせおって」 コルベールが怪訝そうな顔をした。 「まさか、予見していたのですか…?」 「予見?違うよ。このワシが促したんじゃ、こうなるようにな」 実のところ、あの都市伝説が学院中に広まるよう仕向けたのはこの老人であった。 その結果、シンジと初号機のコンタクト回数が飛躍的に伸びるのは目に見えている。 さすれば、シンジがガンダールヴの秘めたる力をもって、エヴァを使役するのに必要な時間が、かなり短縮されるであろう、そう目論んだのだ。 「オールドオスマン…。あの少年はアダム族なのでしょうか…?」 「いや、恐らくリリンじゃろうな。もし、彼がアダムの眷属ならば、ギーシュ・ド・グラモンとの決闘の際、【心の壁】を使っていたじゃろうて」 「し、しかし、アダムの眷属と【同化】出来るのは、アダムと同じ肉体の構造を持つアダムの眷属だけのはずです」 「きみはガンダールヴについてどこまで知っている?」 「始祖ブリミルの使い魔でありとあらゆる武器をつかいこなした存在としか…」 「では、なぜガンダールヴはありとあらゆる武器を使いこなせるんだね?」 「いや、その、存じ上げません…」 コルベールはしどろもどろになりながら答えた。 オスマンが軽いため息をつく。 「きみは博識の様にみえるが、肝心な事は何も分かっていないんじゃな」 「申し訳ございません…」 「いいか、よく聞きなさい。ガンダールヴがガンダールヴたる所以は、ガンダールヴが、神々より、【三つの実】を与えられたことにある。 一つは【生命の実】。これはアダム族が食した実じゃ。この実によって、ガンダールヴは驚異的な身体能力を手に入れた。 二つ目は【智恵の実】。これは、我々、リリンが食した実なんじゃ。そのおかげで、我々は文明を手に入れた。ガンダールヴはこの実の力によって、ありとあらゆる武器の最適な使い方を導き出す。 さて、ここでクイズじゃ。あの少年が自身の身の丈を越える程の鉄槌を手にしたらどうなると思う?実際にそういう武器を扱う平民の戦士はおるぞ」 突然、質問を投げ掛けられたコルベールは思ったことを素直に口にした。 「やはり、使いこなすのではないでしょうか…」 「半分正解で半分ハズレじゃ」 「と、申しますと?」 「確かに鉄槌を使いこなすじゃろう。生命の実によって、身体能力が向上しておるからな。しかし、使いこなすと言っても人並み程度じゃ。 伝説にあるように、千人の軍団と互角に立ち回る等、まず不可能じゃろうて。彼は小柄過ぎる」 「では、伝説が誤っていると?」 「そう、結論を急くな。ふむ、そうじゃな。彼が鉄槌を手にしてから一週間も経てば、人外と呼んでいいほど、自在に使いこなせるようになるじゃろうな」 「何故です?」 「それだけの時間があれば、彼は強靭で逞しい肉体へと成長を遂げるからじゃ。逆に、レイピアなどの俊敏さが要求される武器を彼に握らせれば、細く引き締まった身体になるじゃろう」 「どういう意味ですか?」 「その理由は【進化の実】にある。アダム族にも、我々、リリンにも与えられる事がなく、ガンダールヴのみに託された唯一無比の実じゃよ。 その実のおかげで、ガンダールヴは強くありたいと願えば、強くなるし、賢くありたいと願えば、賢くなる。常識外れのスピードでな。つまり、ガンダールヴは究極の進化システムを有した絶対的な存在なんじゃよ」 「な、なるほど…。オールド・オスマンの並々ならぬ知識には平伏するばかりです」 お世辞を言いながらも、コルベールはあることが心にひっかかって仕方がなかった。 この老人はガンダールヴに関して、なぜ、こんなにも詳しいのだろうか。 国内でもトップクラスの所蔵数を誇るトリステイン学院内図書館にも、ガンダールヴに関して述べられている書物は数点しかない。その上、それらの全てが曖昧な内容で、本によっては書いてあることも違う。 おそらく王室図書館も同様であろう。 しかし、この老人が出鱈目なことを言ってるようにも、思えない。筋がきちんと通っているのだ。老人の言葉はどんな書物よりも説得力があった。 その老人が再び口を開く。 「そのガンダールヴが魂のないエヴァと接触したらどうなる?答えは簡単じゃ。あれ程、強力な武器など、世界中のどこを探しても見つからんじゃろうて。ガンダールヴのルーンは喜んで刻印者の体を書き換えるじゃろうな」 「まさか…」 「左様。彼の肉体の構造は、今、アダムのそれになっているに違いない。リリンの魂を持ちながらアダムの肉体を持つ、新たな可能性を持ったヒトの誕生じゃ…」 オスマンが冷酷な笑みを浮かべた。 「オールド・オスマン…。あなたの真意はどこにあるのですか?」 オスマンが笑う。冷酷な微笑に冷度が増した。 「ミスタ・コルベール。私には優秀な駒が必要なんじゃ。それも、大量にな。全ては【神様気取りの馬鹿げた人間】に対抗するために」 「は、はぁ」 「きみにも、いろいろと働いてもらうぞ。私には君のような人間が必要だ」 コルベールは嫌な予感にかられた。 「はい、ありがとうございます」 「ただな、心してくれよ。もし、きみの口から、秘密が漏れるようなことがあれば、私は、きみを始末しなくてはならない」 オスマンの表情に凶暴な陰りがさしたように見え、コルベールの背中に冷や汗が流れた。 「は!杖に誓って!」 それしか、言えなかった。 会話に夢中になっていた為、不自然な地鳴りが接近してくるのに、二人揃って気付くのが遅れた。 窓の外を眺めると、真っ直ぐ本塔に向かい歩行する初号機の姿があった。 初号機の後ろには半壊した火の塔が見える。 「なるほど。オールド・オスマンはこれも予見していたのですね」 「…皮肉か?」 「と、とんでもありません」 コルベールが額に滲んだ汗をポケットから取り出したハンカチで拭った。 「どうやら、まだ、【同化】が甘いようじゃな。全く御しれておらん」 「しかし、いかが致しますか…?このままだと、本塔も火の塔の二の舞になりますぞ」 「まあ、本塔は他の建物に比べ、かなり強靭に作られている上、ありとあらゆる場所に【固定化】の魔法も施されておる。あの速度なら、突撃されてもそれ程の被害にはならんよ。それでエヴァも留められるじゃろ」 オスマンの予想通り、初号機はそのままの速度で本塔に直撃し、その動作を止めた。 しかし、大量の壁や柱が崩れ落ち、本塔が盛大に揺れたのは予想外だった。彼は初号機の重量を見誤っていたのである。 「これで、またエヴァ破棄派の教師達がうるさくなりますな」 「ああ。しかし、それよりも…」 オスマンは初号機がめり込んだ壁面を見つめた。 「まずいな…。宝物庫に近すぎる」 その光景を本塔の外から眺めていたロングビルが微笑む。突如、舞い降りた幸運を目にし、喜びに満ち溢れていたのだ。 「チャーンス…っ!」 彼女は静かに呟いた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『土くれ』の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を震撼させているメイジの盗賊がいる。土くれのフーケである。 フーケはトリステイン全体を舞台にして、所狭しと盗みに励んでいた。夜陰に乗じて邸宅に侵入し、誰にも気付かれることなく対象を奪い去ったと思えば、白昼堂々王立銀行を襲ったりもした。 フーケの特徴は城でも壊せるような、巨大な土くれのゴーレムを使役すること、そして、扉や壁を錬金魔法によって土くれに変えてしまうことだ。 『土くれ』は、そんな能力を持つことからつけられた、二つ名なのであった。 そんな土くれのフーケの正体を見たものはいない。男か、女かもわかっていない。ただ、わかっているのは『土』系統のメイジであるということと、犯行現場の壁に『秘蔵の○○、確かに領収致しました』とふざけたサインを残していくこと。 そして、所謂マジックアイテム、強力な魔法が付与された数々の高名なお宝が名によりも好きということであった。 巨大な二つの月が、五階に宝物庫がある魔法学院の本塔の外壁を照らしている。 壁にめり込む初号機の肩の上には、長く青い髪を夜風に靡かせ悠然と佇む人影があった。 土くれのフーケである。 「予想通りね。オーガの腕が宝物庫の内側まで壁をぶち抜いてるわ…。これなら、簡単に【破壊の杖】を頂戴できるわね」 宝物庫は、一流のメイジが複数人も集まって、あらゆる呪文に対抗出来るよう設計されていた。 そのせいで、高名な土くれのフーケすらも迂闊には手を出せずにいたのだ。しかし、昼間の騒動により、呆気なく破壊されてしまった。 フーケにとって、恰好の機会が訪れたのだ。フーケがそれを見過ごすはずがなかった。 翌朝。 トリステイン魔法学院の教員室では、朝から蜂の巣をつついた様な騒ぎが続いていた。 何せ、秘宝【破壊の杖】が盗まれたのである。 朝、見回りの教師が宝物庫を点検した際、壁にフーケの犯行声明が刻まれていた為、事が発覚した。それから、しばらくして、教員の必死の現場検証により、初号機の開けた横穴が侵入経路であるということもわかったのだ。 すぐさま、ルイズとシンジが教員室に呼び付けられ、その場にいたほとんどの教師に吊し上げられた。 鳶色の瞳が潤んでいるのを見てシンジの心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 そこにオスマンが現れた。 「これこれ、子供をそういじめるものではない」 ルイズとシンジを叱り続けていた教師がオスマンに訴える。 「しかしですね。全責任は彼等にあります。やはり、あのオーガ、処分するべきですよ!」 「子供をくどくど叱ったところで【破壊の杖】が返って来るわけでもなかろう。それにオーガの処分がどうとか言う議論も、今、やったところで無意味じゃ」 それから、オスマンは、気付いたようにコルベールに尋ねた。 「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」 「それがその…、朝から姿が見えませんで」 「この非常時に、どこに行ったんじゃ」 「どこなんでしょう」 そんな噂をしているところにミス・ロングビルが現れた。 彼女は、今朝、事が露見してからというもの、単独でフーケの行方を調査していたようで、近在の平民から有力な情報を得たといった内容の報告をオスマンにした。 「仕事が早いの。ミス・ロングビル」 コルベールが慌てた様子で促した。 「で、その情報とは?」 「はい、フーケは近くの森の廃屋を隠れ家としている模様です。その平民が言うには、今朝方、巨大なゴーレムを従えた黒ずくめのローブを来た男が、その廃屋に入っていったようです」 「ふむ、調べてみる価値はありそうじゃな」 オスマンが、髭を撫でながら言った。 「で、そこは近いんですか?」 コルベールが問う。 「はい、徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか」 「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」 一人の教師が叫んだ。 オスマンは首を降ると、目をむいて怒鳴った。年寄りとは思えない迫力であった。 「馬鹿者!身に降りかかる火の粉を己で払えんで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!これは魔法学院の問題じゃ!当然、我等で解決する!」 オスマンは咳ばらいをし、有志を募った。 「では、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」 しかし、誰も杖を掲げない。皆、困ったように顔を見合わせるだけだ。 「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」 ルイズは俯いていたが、それからすっと杖を顔の前に掲げた。 「ミス・ヴァリエール!」 一人の女教師が驚きの声を上げた。 「何をしているんですか!あなたは魔法も未熟な生徒じゃありませんか!」 「お願いします。私にやらせて下さい、オールド・オスマン!自分で犯した不始末くらい、自分で始末を付けさせて下さい!」 ルイズはきっと唇を強く結んで、言い放った。真剣な目をしたルイズは凛々しく、美しかった。 その様子を見て、オスマンは軽く笑った。 「そうか。では、君に頼むとしよう」 教師達が口々に反対の声をあげる。 「返り討ちにあうのが関の山です!」 「何故、そんな馬鹿げたご決断を…!」 オスマンは、教師達の言葉に取り合わず、ルイズに言葉を投げかけた。 「魔法学院は、君の努力と貴族の義務に期待する!」 ルイズは直立し威勢よく言い放った。 「この杖にかけて!」 それからスカートの裾をつまみ、恭しく礼をする。 シンジは呆けた様子でその光景を見守っているだけだった。 その後、シンジは、オスマンに促され、初号機の前まで連れて来られた。 ルイズは、案内役を務めることになったミス・ロングビルと共に出発の準備をしている。 「昨日は失敗したようじゃな」 「すいませんでした…。校舎を壊してしまって」 「なに、気にすることはない。幸い怪我人もおらんかった」 「あの…。このルーンは…、ガンダールヴとは一体なんなんですか?昨日、このルーンが発光して、それで気付いたらエヴァとシンクロしているような感覚に陥って…、冗談で歩く様に思ったら本当に歩いてしまって…」 シンジは不安げな声でとつとつと語った。 「伝説の使い魔のルーンじゃよ。先日、説明した通り、それが全てじゃ」 もちろん、この言葉は嘘である。オスマンは、今の段階でこの少年に全てを語るのは時期尚早と考えているのだ。 「この前、おっしゃっていた特殊能力ってやつなんでしょうか?」 「おそらくな。さぁ、昨日と同じ様にやってごらんなさい。意識を集中させ、呼吸は深く」 「だけど、昨日と同じことになってしまったら…」 「最初から、失敗することを考えてはならん。成功するイメージを強く持つんじゃ。それに、ここで君が諦めたら、ミス・ヴァリエールの命も今日限りじゃろうな」 シンジが眉をひそめる。 「ミス・ヴァリエールに対して失礼を承知で言うが、彼女が『土くれのフーケ』と対峙するなんてことは、性質(たち)の悪いパーティージョークにもならん。 使い魔である君は、ミス・ヴァリエールの実力の程をよく理解しておるじゃろ。土くれのフーケは、その所業はともかく、非常に強力なメイジじゃよ。ミス・ヴァリエールの決断は、はっきり言って、蟻が象を倒そうとするくらい愚かな行為じゃ。 それでも、彼女が退くことはないじゃろう。彼女の覚悟は本物じゃ。わしはそう確信しておる。じゃから、やられるよ、あっさりとな。君はそれでいいのかい?」 「そんなの…っ!決まってます、よくないです。だけど、ぼくには何も出来ない…」 それだけ言うと、シンジは悔しそうに拳を握りながら俯いた。 オスマンはそんなシンジの頭を優しく撫でる。 「何を言ってるのじゃ。君には、このオーガがいるじゃないか。このオーガを使役する君なら、間違いなく土くれのフーケごときには遅れをとったりはせん。わしが保証しよう」 シンジが顔を上げる。彼の瞳には、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる老人の顔が映った。 「ぼくに出来るんでしょう…?」 「君が望むのであればな。さ、やってみなさい…」 シンジは瞳を閉じ、意識を集中させた。 少年の決意に答えるかのごとくガンダールヴのルーンが鮮やかな青色の光を放ち始めた。 まず、初号機の両腕が動いた。手の平で壁を押し上げ、自らの体をそこから引き抜いたのだ。 その振動で、石くれや砂埃が地面に舞う。 それから、ゆっくりと数歩だけ後退し、その場所に直立した。 「…動いた。オスマンさん、ぼくの思った通りに動きましたよ!」 シンジが興奮気味に叫ぶ。 「成せば成る、何事もな」 オスマンは少年に向かってにっこりと微笑んだ。 電力もエントリープラグすらも必要としない初号機の自立起動、それはシンジの世界の常識に照らし合わせれば、不可解極まりない自体のはずだった。 しかし、オスマンの思惑通り、シンジは偶発的に発揮されたガンダールヴの特殊能力によるものと思い込んでしまった。不利益などあろうはずがない、そう信じて疑わなかったのだ。 シンジが自身の体の変化に気付くのはまだまだ先の話である。 その為、彼のアダム族としての肉体は、次第にリリンの魂に馴染んでいった。取り返しがつかなくなるのも、そう遠い日ではない。 「じょ、冗談じゃないわ。そんなの連れていけないわよ」 ルイズは、待ち合わせ場所に現れたシンジの後ろにいる巨大な初号機を見上げ、顔をこわばせながら言った。 彼女の言い分はもっともである。なにせ、先日、死ぬような思いをさせられたばかりだし、その上、頭を抱えたくなるようなこの現状を作り出したのも、結局は初号機なのだ。 ミス・ロングビルはというと、顔を蒼白させたまま押し黙っていた。当然の反応なのかもしれない。しかし、勇気を振り絞り、それでもやっぱり震える声で、オスマンに向かい言った。 「私もミス・ヴァリエールの意見に賛成です。危険を増加させるだけのような気がします。それに今回の任務には隠密性が重要です。こんな巨大なオーガを従えていたら、フーケに、貴方を追跡する私達はここにいますよ、と言っているようなものですわ」 オスマンは首を横に振ると、二人を窘める様に言った。 「相手はあのフーケじゃ。使えるものは何であろうとも使い切る、それくらいの心構えで臨まないと、苦心を舐めさせられるだけじゃよ」 ルイズがそれに反論した。 「しかし、オールド・オスマンもヴェストリの広場での事件をご存知のはずです。このオーガは狂気の塊です。そんなものには、背中をあずけられません。ただでさえ、危険な任務なのに、背後すらも気にしなくてはいけない様では、それこそ達成は困難です」 「前を歩かせれば済む話じゃ」 オスマンが呑気な声で揚げ足をとると、ルイズの肩が振るえ始めた。 「そういう事を申し上げてるんじゃございません!」 「わかっておるよ。それに大丈夫じゃ。君達の心配するようなことは起きん。彼はこうして立派にこのオーガを制御しているではないか」 しかし、ルイズは納得がいかない様子だった。 オスマンは彼の長い髭を摩った。 「ふむ、そうじゃ、ミス・ヴァリエール。わしから交換条件をだそう」 「交換条件…、ですか?」 「もし、君がこのオーガの同行を認めるならば、火の塔及び本塔の修繕にかかる全費用を本学院が負担しよう。つまりチャラじゃ。どうだね、悪くない条件だと思うのじゃが」 突然、提示された破格の条件にルイズは目を丸くした。当然の事ながら、あれだけ破壊された校舎を、彼女がもらう実家からの仕送りだけで、修復することなど不可能だ。 と、すると、両親に泣き付かなければならなくなる。ヴァリエール家はトリステインの名門だ。払えないことはないだろう。 しかし、大目玉を喰らうのだけは免れない。もし、オスマンの提案を飲めば、その悩みは解消される。 結論は簡単に出た。 「オールド・オスマンがそこまで譲歩して下さっているのに、お断りするなんて出来ませんわ」 ルイズは微笑んだ。 ミス・ロングビルの顔からは血の気が完全に失せた。 それから、一行はロングビルが用意した馬車に乗り込んだ。 馬車といっても幌のない荷車に馬二頭を固定しただけの粗末なものである。土くれのフーケに奇襲を受けた時に、豪華な籠車よりも散開しやすいというのが理由だ。 御者を担うことになったロングビルが鞭を振るうと、従順な馬達が走りだす。 それを見届けていたオスマンに背後から声をかける者がいた。 コルベールである。 「彼は勝つでしょうか…?」 「ああ、間違いなくな。土くれのフーケごときでは手も足も出んじゃろ」 エントリープラグを経由して初号機とシンクロする場合、初号機の視覚が捉えたものはエントリープラグの内壁に投影される仕組みになっている。 しかし、ガンダールヴを利用したシンクロだと初号機の視覚まではリンクされないようだった。 ちなみに俯瞰視点からの操縦は思った以上に困難で、出発直後の初号機は事あるごとに転倒し、荷車を牽引する馬を、一々、驚かせていた。 そして初号機の転倒数に比例して、馬の手綱を握るロングビルの血色は明らかに良くなっていった。今では、その端正な顔立ちに笑みすら浮かべている程だ。 「意外とお茶目なんですね、このオーガは」 そんな言葉まで口から出始めた。単純に滑稽な初号機の姿を楽しんでいるだけなのかもしれない。 しかし、一時間も経つと【サードチルドレン】という名に恥じない華麗な操縦をするシンジの姿があった。 この少年は根が真面目なだけあって、移動中、来たるべきゴーレムとの戦いに備えて、初号機の訓練を続けたのだ。 地球では何度も搭乗した機体である。その為、下地だけは十分に出来上がっていたので、コツを掴んだ後の彼の成長ぶりは劇的なものだった。 目の前で初号機の前方宙返りを披露されたルイズは呆気にとられて呟く。 「すごい…。こんな曲芸まで出来ちゃうんだ」 初号機が着地した際に発生した衝撃により、地面がめくれ、巨大な土の固まりが宙を舞った。 「やろうと思えば、300メイルくらい簡単に跳躍できますよ」 シンジが自信に満ち溢れた声で断言した。 「ほんとに!?すごいじゃないの!」 「これがエヴァの本当の姿です」 それから、シンジは初号機の事について、彼が知りうる知識を事細かくルイズに向かって説明した。 初号機の左肩部に納めされているナイフを使えば、いかなる金属も容易に切断可能であること。初号機の体の周りを覆う装甲は短時間であれば、高熱のマグマに浸そうが十分に耐えられる性能を持っていること。 そして、初号機の展開するA.T.フィールドは、同じA.T.フィールドに中和されない限り、ほぼ全ての攻撃を無効化するということ。 シンジの言葉を聞いていたルイズの鳶色の瞳がきらきらと輝きだす。 この少年は実に控えめな性格である。だから、間違っても大見栄を切る為だけに嘘言を呈することなどは考えられないのだ。 つまり、彼の言葉は全て真実に違いない。ルイズは、そう確信した。 「土くれのフーケなんて目じゃないわね」 「たぶん、そうですね」 シンジが微笑む。 すると、ロングビルが体調の不良を訴え、仕方なくルイズが代わりに手綱を握ることになった。 シンジには経験がない為である。 必然的に、シンジがロングビルの看病をすることになった。 「あの、大丈夫ですか、ロングビルさん?」 シンジが心配のあまり、横たわるロングビルに尋ねた。 「ええ。なんとか…」 言葉とは裏腹に、ロングビルはどんどん容態を悪化させていった。そんな彼女が無理して口を開く。唇が真っ青だった。 「あの、碇くん。さっきの言葉は本当ですか…?」 「さっきの言葉?」 「あのオーガの潜在能力…」 「ええ、本当です。土くれのフーケなんて、すぐに片付けてみせますよ。だから、ロングビルさんは安心して横になっていて下さい」 ロングビルはあっさりと自身の意識を手放した。 ルイズとシンジは二人揃って顔を青くした。 急激な症状の悪化、そして、ついには昏倒してしまったのだ。なにか生命に関わるような病なのではなかろうか。二人の頭には最悪の展開がよぎった。 「ど、どうしましょう、ルイズさん?」 「トリステイン学院に戻るしかないわね」 「土くれのフーケは?」 「人の命には変えられないわよ」 ルイズは少しだけ残念そうに呟いた。 しかし、その台詞に嘘はなかったらしく、手綱を操ると馬車をもと来た道に引き戻した。 その時、空を舞う一匹の風竜がルイズの視界に飛び込んで来た。猛烈な速さでこっちに向かって飛翔している。その背には見知った顔が二つ、キュルケとタバサだった。 ルイズの姿を捉えた風竜が馬車の側に舞い降りた。 「キュルケにタバサ!あんた達何しに来たのよ!」 キュルケが風竜から飛び降りて、前髪をかきあげた。 「学院中の噂になってるわよ。ルイズが、あのゼロのルイズが、学院一番の落ちこぼれが、土くれのフーケの討伐にでたってね。身の程知らずもいいとこだわ。だから、あんたがやられるところを見学しに来たの」 「さっきと言ってることが違う…」 タバサがぽつりと呟いた。 「しっ!タバサ、あなたは黙ってて」 キュルケがタバサを制した。 なんだかんだ言っても、ルイズのことが心配で駆け付けたのだろう。シンジのなけなしの勘が、そう告げていた。 すると、ルイズが誇らしげに胸をはる。 「あんた、あのオーガが見えないの?」 キュルケのこめかみに汗が滲んだ。 「……それも学院中の噂になってたわ。ルイズの使い魔が例のオーガを引き連れて、校門の外に消えたって。これ、どういうことよ?なんで動いてんのよ?」 キュルケは、暴走時の初号機しか知らない。その為、初号機には拭いがたい畏怖の念を抱いているのだ。 「いい、よーく聞きなさいよ?このオーガはシンジの使い魔なの。つまり、私の使い魔は、使い魔でありながら、使い魔を使役する素晴らしい使い魔なのよ!」 「なんか、早口言葉みたいですね」 シンジがちゃちゃを入れるとルイズに、ばか、と一言説教された。 「つまり、今はシンジ君の制御下にあるわけ?」 キュルケがシンジに尋ねる。 「ええ」 「暴れたりしない?」 「大丈夫ですよ」 シンジの言質をとったキュルケは、少しの不安をその豊かな胸に残しながらも、再び余裕の態度を取り戻した。 「じゃ、行くわよ、ルイズ」 「どこによ?」 「フーケの所に決まってるじゃない」 「無理よ」 「どうして?」 ルイズが昏倒したままのロングビルを指差した。 「ミス・ロングビルの体調が優れないの。ひょっとしたら、何か重い病なのかもしれないし…」 キュルケがタバサを見遣る。 「わかった」 キュルケの言いたいことを瞬時に察知したタバサは、ロングビルの体に物体浮遊魔法【レビテーション】をかけ、彼女の使い魔である風竜の背に乗せた。 「頼むわよ」 キュルケの言葉にタバサは軽く頷き、風竜に指示をだした。 「シルフィード、トリステイン学院へ」 シルフィードと呼ばれた風竜は短く鳴いて、了解の意を主人に伝えると、青い鱗を輝かせ、力強く翼を羽ばたかせた。あっという間に高空にのぼり、トリステイン学院に向け飛んでいった。 「さ、後顧の憂いは絶たれたわよ。行きましょうか」 キュルケの言葉通りトリステイン学院に戻る理由のなくなった一行はフーケの隠れ家へと馬車を走らせた。 しかし、それはシンジの苦行の始まりに過ぎなかった。 まず、誰が手綱を握るかで喧嘩が始まった。シンジの無難な提案で代わりばんこにやることになった。 次にルイズが用意していたお昼のお弁当をきっかけにして、喧嘩が始まった。味付けは薄い方がいい、だとか、恋と一緒で何事も濃い方がいい、だとか、シンジからすればどうでも良い内容ばかりだった。 その後もルイズとキュルケの口喧嘩は絶える事なく続き、それを宥める役目のシンジがいい加減に辟易してきた頃、馬車は深い森に入っていった。鬱蒼とした森が三人の恐怖を煽る、…わけがなかった。前方を歩く初号機が行く先を阻む木々を次々と薙ぎ倒しているからである。 「土木用に使えるわね」 その光景を眺めていたキュルケが軽口を叩いた。 しばらくすると、一行は開けた場所に出た。森の中の空き地といった風情である。 ロングビルの情報通りその中心には確かに廃屋があった。元は樵小屋だったのだろう。朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が隣に並んでいる。 人が住んでる気配は全くない。本当にフーケはあの中にいるのだろうか? 二人の少女が同様の考えを頭に巡らせていた時、唐突にシンジが口を開いた。 「この情報、ガセじゃないですか?」 「なんでよ?」 ルイズが尋ねた。 「だって、ロングビルさんが言ってたじゃないですか。フーケは巨大なゴーレムを従えて廃屋に入っていったって。フーケの作り出すゴーレムはおよそ30メイルの巨体ですよね?40メイルのエヴァとあまり変わりのないゴーレムが森を破壊せずに進むなんて有り得ないですよ。 なのに、この空き地のどこを見ても、そんな様子は全くないじゃないですか」 シンジの言うことはもっともだった。 無駄足だった事に気付いた二人の少女が揃って溜息をつく。 「一応、中の様子を見てきますね」 「そ、頑張ってね」 ルイズは力無く言った。緊張の糸が一気に切れてしまったようだ。 シンジは小屋の側まで、近づくと窓越しに中を覗いてみた。やはり、小屋の中に人影はない。 部屋の中には埃の積もったテーブルと、転がった椅子があるだけだった。 しかしながら、シンジを驚かせるには十分な代物がテーブルの上に置かれていた。それはシンジのよく知る物だったのだ。 ――あれは…、マゴロク・エクスタミネート…。 しかし、その【代物】はシンジが知っているそれよりもはるかに小さい。ちょうど、人が扱うようなサイズだ。恐らく試作品か、それに近いものなのだろう。 シンジは小屋の中に入ると、それを手にとった。 やはり、あれに間違いない。もしかして、これが破壊の杖なのだろうか。 シンジは小屋から出て、ルイズに声をかけた。 「ルイズさん、破壊の杖って、これのことですか?」 シンジから差し出された物を驚きの表情で凝視したルイズは慌ててポケットの中から折りたたまれた一枚の紙を取り出した 。 ルイズは破壊の杖を見たことがない。その為、破壊の杖の成形が描かれた紙をオスマンから預かっていたのである。そして、紙に描かれたスケッチとシンジの手にするそれの姿は酷似していた。 「間違いないわ…。それこそが破壊の杖よ」 杖?これのどこが? シンジは少し納得がいかない様子だった。 「と、とにかく、任務達成よ!」 ルイズがシンジに向かってピースサインを送った。 ロングビルは保健室でいまだ昏倒したままである。かと言って、命に別状があるわけでもないようだ。トリステイン学院に常勤する医師によると、過度のストレスが原因ではないかということだった。 学院長室で三人の報告を聞いたオスマンが微笑む。 「よくぞ、破壊の杖を取り返してきた」 誇らしげに、ルイズとキュルケが礼をした。 「一件落着じゃな。君達二人の働きに貢献する為に、【シュヴァリエ】の爵位申請を王室に出すつもりじゃ。追って沙汰があるじゃろう」 二人の少女の顔が輝く。 「本当ですか?」 キュルケが驚いた声で言った。 「嘘はない。君達はそれくらいのことをしたのじゃからな」 ルイズがちらっとシンジの顔を伺う。 「オールド・オスマン。シンジには何もないんですか?」 「残念ながら、彼は貴族ではない」 「ルイズさん、気にしないで下さい。ぼくは何もいらないですよ」 シンジが言うと、オスマンはぽんぽんと手を打った。 「さてと、今日の夜は【フリッグの舞踏会】じゃ。この通り、破壊の杖も戻ってきたし、予定通り行う」 「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました」 キュルケの様子が急に慌ただしくなった。 「今日の舞踏会の主役は君達じゃ。用意してきたまたまえ。せいぜい、着飾るのじゃよ」 二人は礼をするとドアに向かった。しかし、シンジは動こうとしない。ルイズがその姿を見て、立ち止まる。 「先に行ってて下さい」 シンジが言うと、ルイズは心配そうに彼を見つめた後、頷いて部屋を出ていった。 「なにか、わしに聞きたい事があるねかね?」 シンジは頷いた。 「あの破壊の杖はぼくがもといた世界の武器です」 オスマンの目が光る。 「ふむ、もといた世界とは?」 「ぼくはこの世界の人間じゃありません」 「本当にそう思っているのかね?」 「間違いないです。ぼくの世界の常識はハルゲキニアは全く通用しません。ぼくは、ルイズさんの召喚でこっちの世界に呼ばれたんです」 オスマンは目を細め言った。 「ハルゲキニアの星空を見たことはあるかい?」 「はい?」 「答えははそこにあるんじゃよ、おそらくな」 オスマンの頭の中には、すでに一つの仮説が出来ていたのだ。 「よく分かりません」 「今はそれでいいんじゃよ」 オスマンが微笑む。 うやむやにされた気もしないでもなかったが、それには目をつむり、シンジは一つの疑問をオスマンに投げかけた。 「あれは…、破壊の杖はぼくの世界で、【マゴロク・エクスタミネート・ソード】と呼ばれていました。つまり、剣です。形状だって、どこからどう見ても剣のはずです。なぜ、あれが破壊の『杖』なんですか?あれをこの世界に持ってきたのは誰なんですか?」 オスマンは溜息をついた。 「あれをわしにくれたのは、わしの命の恩人じゃ」 「その人はどうしたんですか?その人はぼくと同じ世界の人間です。間違いありません」 「死んでしまった。今から300年も昔の話じゃ」 「300年?」 「わしは350歳くらいになる。正確な年齢は忘れてしまったよ。永く生き過ぎたせいでな」 「こっちの世界の人はそんなに長寿なんですか?」 「いや、わしだけじゃよ。普通の人間なら100年も生きられん。話を戻すが、300年前、森を散策していたわしは、ワイバーンに襲われた。 そこを救ってくれたのが、あの破壊の杖の持ち主じゃ。彼は破壊の杖でワイバーンを切り裂くと、ばったりと倒れた。怪我をしていたのじゃ。わしは彼を学院に運び混み手厚く看護した。しかし、その甲斐なく……」 「亡くなられたんですね?」 オスマンは頷いた。 「わしは恩人の形見に、『破壊の杖』と名付け宝物庫にしまいこんだ。もちろん、わしにも、わかっておった。あれは剣だとな」 「では、何故…?」 「君も知っておろう。剣は平民の武器じゃ。貴族は杖を使う。わしは自分の恩人が使用した武器に敬意を表して『杖』と銘打った。ただ、それだけのことじゃよ」 オスマンが遠い目になった。 「彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとの様に繰り返しておった。『ここはどこだ。元の世界に帰りたい』とな」 「いったい、誰がこっちにその人を呼んだんですか?」 「それはわからん。どんな方法で彼がハルゲキニアにやってきたのか、最後までわからんかった」 「そうですか…。もとの世界に戻るきっかけになればと思ったんですが…」 「力になれんで、悪いの。ただ、これだけは言っておく。わしはいつだって君の味方じゃ」 オスマンはそう言うと、シンジの体を抱きしめた。 「よくぞ、恩人の形見を取り戻してくれた。改めて礼を言うぞ」 「いえ……」 「君は平民だ。爵位を与えることは出来ない。その代わりにこの破壊の杖を君に授けよう」 「いえ、そんな…。オスマンさんの恩人の形見じゃないですか。とても、受け取れません」 オスマンがシンジの頬を撫でた。 「君はまだまだ幼い。望郷の念にかられることもあるだろう。その慰めにでもしなさい…」 「……本当にいいんですか?」 「もちろんじゃ」 オスマンは二刀一対のマゴロクソードをシンジの手に握らせた。 アルヴィースの食堂の上の階が大きなホールになっている。舞踏会はそこで行われていた。シンジはバルコニーの枠にもたれ、星空をぼんやりと眺めていた。 オスマンの言葉が、頭の中でリフレインする。 『ハルゲキニアの星空を見たことはあるかね?』 一人寂しく佇むシンジの姿に気付いたキュルケが彼のもとに近寄ってきた。純白のドレスがきめ細やかな褐色の肌を際立たせている。胸元が不必要なまでに開いていた。 「シンジ君、なにしてるの?」 「いえ、星空を眺めていたら、なんだか、懐かしくなってきちゃって…」 「あら、意外とロマンチストなのね」 「違うんです。星の配置だけは、ぼくのいた世界と似通ってるみたいで…、それで、なんとなく」 その時、一人の男子生徒がキュルケに声をかけた。 「ミス・ツェルプストー。もし、よろしければ、僕と…」 男子生徒がキュルケに右手を差し出す。ダンスに誘っているのだ。 「喜んで」 微笑みを浮かべたキュルケがシンジに向き直る。 「ごめんね、シンジ君」 「いえ。それよりも、楽しんで来て下さい」 キュルケの姿がホールへと消える。 黒いパーティドレスを着たタバサは、一生懸命にテーブルの上の料理と格闘していた。 皆、それぞれにパーティを満喫しているようだった。 ホールの壮麗な扉が開き、ルイズが姿を現した。シンジに舞踏会の参加を強制させたくせに、えらく遅い登場である。 門に控えた呼出しの衛士が、ルイズの到着を告げた。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおなーりー!」 主役が揃ったことを確認した楽士たちが、小さく、流れるように音楽を奏で始めた。 いつの間にかギーシュがシンジの横にいた。顔が真っ赤だ。相当、ワインを頂戴しているのだろう。 「こうやって、着飾るとルイズもかなりの美人だな。ほら、見なよ。今まで、ルイズの事をからかっていた生徒たちがルイズにダンスを申し込んでる」 「ルイズさんは普段から美人ですよ」 ギーシュが軽く笑った。 「そうか、そうかもな。しかし、そんな美人と毎日寝食を共にできる君は幸せ者だな」 「そうでもないですよ。ずぼらだし、わがままだし…。服くらいは自分で着てもらいたいです」 さっき、一杯だけ飲んだワインが原因なのだろう。シンジにしては珍しく軽口を叩いた。 「他人には見せないありのままの姿を見せる…、それって家族ってことだろ?トリステインに身寄りのない君にとっては有り難い話じゃないか」 シンジは息を飲んだ。 「……ギーシュさんて、いい人だったんですね」 「おいおい。何を今更…」 ギーシュはわざとらしく髪をかきあげる。 「ま、あの時は殴ったりして悪かったな…」 シンジの背中を掌でぽんと叩くと、ギーシュは豪華な食事の並ぶ円卓へと向かった。 入れ代わりにルイズがやって来た。ほんのりと赤みを帯びたシンジの頬に気付いたルイズは腰に手をやって、首を傾げた。 「楽しんでるみたいね。」 「ええ。ルイズさん、ドレス似合ってますね」 「ありがと」 「踊らないんですか?」 「相手がいないのよ」 ルイズが手を広げた。 「いっぱい、誘われてたじゃないですか」 ルイズはシンジの言葉を無視した。 「ね、一緒に踊らない?」 「ぼく、ダンスわからないですよ」 「いいのよ、教えてあげるから」 「ぼくでもできますか?」 ルイズはドレスの裾を恭しく両手で持ち上げると、膝を曲げてシンジに一礼した。 「わたくしと一曲踊って下さいませんこと。ジェントルマン」 きらきらと輝く微笑みを浮かべたルイズがシンジの手をとった。 「私に合わせてね」 シンジは見よう見真似でルイズに合わせて踊りだした。 「ねえ、シンジ…」 「なんですか?」 「私、今ではあなたを召喚して本当に良かったって思ってるの。もちろん、あのオーガがいたからとか、そう意味じゃなくて…」 「ぼくもご主人様がルイズさんで良かったと思ってますよ」 ルイズは軽やかに優雅なステップを踏みながらシンジに尋ねた。 「シンジはもとの世界に帰りたい?」 「ええ。帰らなくちゃならないんです。ぼくにはやらなくてはならないことがありますから…。でも、どうやったら、帰れるかだなんて分かりませんし、もうしばらくはよろしくお願いします」 破壊の杖は一つの事実を示唆していた。マゴロクソードはセカンドインパクト発生後に造られた武器である。300年も昔にあるわけがない。つまり、地球とハルゲキニアの時間軸は間違いなくリンクしていないのだ。よって、焦って帰る方法を探す必要はどこにもない。 のんびりとその時を待てばいい、シンジはそう考えていた。 「こちらこそ、よろしくね。私の可愛い使い魔さん」 シンジが微笑む。 「はい。ぼくはゼロの使い魔ですから…!」 フーケ、 侵 第参話 入 終わり ワ 第四話 ル ド 、来訪 へ続く 【新世紀エヴァンゲリオン×ゼロの使い魔】 ~想いは、時を越えて~ 第一部 完
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10話 後編 勢いを盛り返したキュルケとタバサがラングラーを追い詰める。 「いくわよ、タバサ!」 キュルケの声とともに、複数のファイア・ボールがラングラーに殺到するッ! それと同時にラングラーは鉄クズの弾丸を二人に向けて放つが、 タバサのウィンド・ブレイクがそれらを全て元の軌道からそらす。 二人を貫くはずだった鉄クズはギリギリのところで二人には当たらず、 その後ろの壁に突き刺さる。 そしてラングラーも、自分に向かってきたファイア・ボールは 全て唾を吐きかけた掌で消滅させる。 互いの技術と能力が、互いの攻撃を無力化する。 このままでは、押し込まれかねない。 ラングラーはそう思った。 相手の小娘メイジは二対一で戦うことで精神力の磨り減りを遅くしている。 しかしさっきから鉄クズを撃ちまくっている自分は、残弾にあまり余裕がない。 チョロい仕事だと思って補給二回分の鉄クズしか持ってこなかったのが、 この状況ではかなり痛い。 一回目の補給は既にしてしまったので、次の補給が最後になる。 今までのようにハイペースで撃ちまくることは出来ない。 しかし――手数を減らす事はできない あの青髪の小娘。 あれがいる限り、こちらの攻撃が直撃する事は望めない。 加えて今はこっちの攻撃を防御するのに徹してるからいいが、 こっちの攻撃の度合いが弱まればすぐ攻撃に参加してくるだろう。 接近戦に持ち込む、というのも考えたがすぐに止めた。 そんなことをしたら確実にホワイトスネイクが動く。 赤髪の小娘の炎を消しつつ、 JJFの射撃をほぼ凌ぎきったホワイトスネイクと接近戦で立ち回れるほど JJFは器用じゃないし、自分もそうじゃない。 このままでは、詰まれる。 その焦りが、ラングラーに一つの決断をさせた。 この二人の小娘を、カラカラのミイラにしてやると。 こんな小娘相手に「これ」をやるのは腹立たしいが、 やらずに負けて死ぬよりはずっとマシだ。 そしてキュルケのファイア・ボールの弾幕が一瞬途切れた瞬間、 ラングラーはJJFの両腕のリングを開いた。 鉄クズの弾幕が途切れる。 それと同時にタバサが素早くルーンを唱え、身の丈より長い杖を軽く振る。 ラングラーがJJFの腕のリングに唾を素早く吐き入れたのは、 それのコンマ一秒、二秒ほど後。 直後、タバサのエア・ハンマーがラングラーに襲い掛かる。 ゴォアッ! 唸りを上げて自分に迫る風圧の塊をラングラーはモロに食らい、 壁に叩きつけられる。 ドグシャァッ! 「があッ!」 自分の体に走った衝撃と鈍痛にラングラーが呻いた。 だが顔を苦悶に歪めながらも、ラングラーの口は笑みの形に歪んでいた。 JJFの腕のリングは既に閉じ、高速で回転していた。 そのリングの中で、先ほど吐き入れられた唾は拡散、分散し、 リングの中の全ての鉄クズに付着した。 無重力の世界を生み、さらに真空の世界を作り出すラングラーの唾。 それが、弾丸として発射される鉄クズをコーティングした。 この世界でラングラーが編み出した、 JJFの究極にして最悪の戦術が始まった。 「ようやく・・・追い詰めたってとこかしら?」 タバサのエア・ハンマーで確実なダメージを受けて膝を突くラングラーを見て、 キュルケはそう呟いた。 「まだ油断できない」 タバサはそれを制するように言い、杖をラングラーに向ける。 キュルケはそれに頷くと、タバサと同様に杖を構える。 二人とも残りの精神力にはあまり余裕が無い。 決着をつけるなら、次しかなかった。 そのときだ。 「しかし・・・お前らは・・・よく頑張ったよ」 ラングラーが二人に声をかけた。 エア・ハンマーをまともに食らった割には、その声に張りがあった。 「・・・どういう意味よ?」 警戒しつつ、キュルケが答える。 「まだハタチにもならねえってのに・・・トライアングルで・・・ オレとここまで・・・やりあえるとはな・・・恐れ入ったよ」 「だから何が言いたいのよ!?」 明らかに追い詰められた状況でありながらも余裕を崩さないラングラーに、 キュルケは得体の知れない恐怖を感じた。 タバサも口こそ開かなかったが、キュルケと同様にそれを感じていた。 「だがな・・・お前らは・・・これから詰まれるんだぜッ!」 瞬間、JJFがリングに残る全ての鉄クズを、部屋中に無差別に撃ち放った。 ドドドドドドドドドドドッ! 放たれた鉄クズは、あるものはキュルケ、タバサ、そしてルイズへと向かい、 またあるものは壁に突き刺さり、またあるものは壁を跳ねた。 タバサは自分たちの方向へ飛んでくるものを正確に見極め、 ウィンド・ブレイクで射線をずらす。 ルイズへと向かうものは、ホワイトスネイクがルイズのベッドをひっくり返し、 それを盾にしてガードした。 タバサはこの防御で、これでラングラーの攻撃が終わったと思った。 自分の方に向かってきた鉄クズ全てに対処しきったからだ。 だが――ラングラーの攻撃はまだ終わっていなかった。 ホワイトスネイクにはそれが分かっていた。 部屋全体にばら撒くような射撃。 ホワイトスネイクもこれでダメージを受けた。 この攻撃における、ラングラーの狙いは―― 「ソイツハ『跳弾』ダ! 警戒シロ!」 ホワイトスネイクが二人に向かって叫ぶ。 だが、それは遅すぎた。 いや、仮に遅くなかったとしてもこの世界には「跳弾」などという言葉は無い。 故にタバサがその言葉の意味を理解し、正確な防御に移る事は不可能だった。 ドシュシュシュシュシュシュッ! 直後、キュルケとタバサは全身に鉄クズの銃撃を受けた。 同時に二人の体から鮮血が飛び散る。 「がはっ・・・・・・」 「っ・・・く・・・・・・」 呻き声を上げながら崩れ落ちる二人。 「キュルケ! タバサ!」 ルイズが悲鳴を上げる。 「そんな・・・・・・なんで・・・・・・」 「『跳弾』ダ。鉄クズヲ撃ツ角度ヲ調節シ、 壁ヤ天井デ鉄クズノ弾丸ガ軌道ヲ変エルヨウニシタノダ」 「な、なによそれ・・・弾丸が壁とか天井とかで跳ね返って、 それがキュルケたちを攻撃したの? そんなの、ありえないわよ!」 「ダガ現実トシテ二人ハ銃撃ヲ食ラッタ。 ソシテ私モ、先程ソレデダメージヲ受ケテイル」 「そんな・・・・・・」 ホワイトスネイクの言葉に、打ちひしがれるルイズ。 「その通り・・・・・・だ。 そして今の弾丸・・・ただ身体に・・・穴が開くだけじゃあ・・・ない。 もっと・・・・・・面白く・・・なる」 「面白クナル・・・ダト?」 「そうだ・・・・・・見ていろ・・・・・・。 奴らの血で、この床と天井に真っ赤な水彩画を描いてやるぞ・・・」 場所は変わってまたトリステイン魔法学院の校庭。 ある者は命がけで戦い、ある者は盗みを働こうとするこの日の夜。 そんな夜に、二人の男女が校庭を歩いていた。 少女の方の名前はモンモランシー。 二つ名は「香水」。 そして一週間前に、恋人のギーシュに二股かけられた本人だ。 そして男の方は―― 「ああ、モンモランシー! 君は本当に美しいよ! 天高く輝くあの双月も、君の前ではその美しさが霞んでしまうほどに! いや・・・きっと彼らもわかっているんだ。 どれだけ輝こうとも君の美しさには敵わないってね。 だからああして輝きを弱めて、君の美しさを引き立てているのさ! きっとそうだよ! 僕の愛しいモンモランシー!」 …一週間前、モンモランシーがいながら二股をかけた、ギーシュその人であった。 そもそも何故最悪な関係に陥っていたはずの二人がこうして一緒に歩いているのか、それを説明せねばなるまい。 事の発端はギーシュがモンモランシーを夜の散歩の誘ったことであった。 ギーシュは二股かけてたことがバレて傍に女の子がいなくなった状態が一週間も続いていた。 それで寂しくなったからモンモランシーに泣きついたのだ。 だが実際に傍に女の子がいなくなる、という状況に陥って、真っ先にモンモランシーのところに来る辺り、 ギーシュとしての本命はモンモランシーなのだろう。多分。 浮気ばっかりしてるけど、多分そうに違いない。多分。 そしてモンモランシーの方も、それまではホワイトスネイクとの決闘で死に掛けたギーシュを心配はしたものの、 二股をかけられたことが思い出されて、あまりギーシュとは一緒にいたくない気分だった。 だが「一週間経ったから許してあげようか」という気持ちと、 やはりギーシュに対するまだ捨てきれない気持ちがあって、夜の散歩を了承した。 そしてさっきからもう10分もの間、ギーシュの歯が浮くようなお世辞をノンストップで聞き続けているのだ。 普通の女の子なら耳が痛くなってくるようなお世辞の数々だが、 モンモランシーには、むしろそれが気分がよく感じられた。 モンモランシーはおだてに弱いタイプだった。 だからこそ、ギーシュが他の女の子にフラフラと近づいて そのままお近づきになってしまうのをその時こそは怒っても、 そのうちすぐに許してしまうのだった。 二股駆けるギーシュがダメダメなのは言うまでも無いことだが、 モンモランシーも何だかんだでダメだった。 でもそうだからこそ、似合いのカップルなのかもしれないが。 ひたすらモンモランシーに愛の言葉を重ねるギーシュ。 それを頬を紅潮させながら聞くモンモランシー。 二人はまだ知らない。 今この瞬間も、この学院の中で死闘が続いていることを。 「くぅっ・・・・・・タバサ・・・大丈夫?」 「・・・大丈夫。まだ、やれる」 「ウソ・・・でしょ、それ・・・。 ギリギリのところで使えた魔法を、殆どあたしを守るために・・・・・・」 「・・・・・・大丈夫、だから・・・・・・」 そう言うタバサの顔は青ざめている。 無理も無い。 タバサが先ほどの攻撃で受けた傷は、鉄クズの直撃が右足に3つ、右腕に2つ。 鉄クズのかすり傷が、脇腹に1つ、肩に1つ。 また、キュルケは鉄クズの直撃が左足に1つ、左腕に1つ。 それのかすり傷が左大腿に一つ、頭に一つ傷が出来ている。 ラングラーの射撃が二人を襲う直前、タバサはウィンド・ブレイクを使っていた。 しかしそれは、魔力を殆ど込める間もなかった弱弱しいものだった。 にもかかわらず、タバサはそれの殆どをキュルケを守るために使った。 そのため彼女が受けたダメージはキュルケのそれよりも、 ずっと多く、そして深いものになったのだ。 傷の激痛で奪われそうになる意識を必死に留めながら、 タバサは思考を回転させる。 このままではまずい。 あの男・・・こちらが思っていたよりも遥かに強かった。 まさか、天井や壁で撃った鉄クズを反射させて、 想定外の方向からこちらを狙うなんて。 さっきのエア・ハンマーでダメージを受けたように見えたのは演技だったのか、 それともダメージを押してあの攻撃を仕掛けてきたか。 いずれにしても、今度は完全にこちらが追い詰められてしまった。 もう一度あの射撃を仕掛けられでも、今の自分ではそれを防御出来ない。 そう考えていると、ふと自分の体に奇妙な違和感を感じた。 体が、軽い。 まるで風に巻き上げられた落ち葉のように、まるで自分の体に重みを感じない。 さっきまで、あの男から受けた傷の激痛で体が鉛のように重かったのに・・・。 いや、違う! 「軽く感じている」などという程度ではない。 自分の体が浮いている! 風も無いのに、何かの力が働いているでも無いのに、 自分の体が宙に浮き上がっている! いや、そればかりではない。 手や足を動かすたびに体がグルグルと回転し、重心が定まらない! これは、一体。 「タ、タバサ・・・こ、これ!」 声がした方を見ると、キュルケの身体も宙に浮き上がり、空中で二転三転している。 一体何が起きた? さっきの弾丸に、何か特別な魔法でも仕掛けたのか? でもこんなことができる魔法は、系統魔法の中には無い。 ならば、こいつが使っているのは――。 「エルフの先住魔法・・・か?」 突然タバサに、ラングラーから声がかかった。 「オレと戦ったものは・・・皆・・・そう言う。 先住の魔法・・・エルフの魔法・・・とな。 当然だ・・・火の魔法・・・風の魔法は・・・使うことすら出来ず・・・ 土の魔法・・・水の魔法は・・・まともなコントロールさえ・・・出来ない。 このオレが・・・・・・『魔法殺し』と・・・呼ばれるのは、そのためだ。 だが・・・オレが使うのは・・・そんなものではない。 それらより強力で・・・それらより凶悪なものだ・・・。 その力で殺されることを・・・誇りに思うがいい・・・・・・」 先住の魔法ではない? だとしたら、一体何がこれを引き起こしている? 考えても考えても、自分に起こったこの現象が説明できない。 とにかく自分の体を固定しなければ。 そう思い、杖を振ってレビテーションを唱え始める。 一体どういう原理で浮き上がっているのかは不明だが、 レビテーションなら身体を魔法で浮かせ、身体を空中に固定できるはずだ。 そう判断してのことだった。 そして、状況が変化したのはその瞬間だった。 傷口から流れ出ていた血の勢いが、突然強くなった。 まるで傷口から血が噴出すように、溢れ出るように流血し始めた。 そして次第にそれすらも通り越し、瞬く間に流血の勢いは強くなり、 まるで噴水のように傷口から出血しているッ! 「こ・・・これは・・・・・・」 「・・・・・・」 自分の身に起こった現象に呆然とするキュルケ。 そして自分の体から血が吹き出るという現実に驚愕したのはタバサも同じだったが、 風のメイジであった彼女にはそれ以上のことが理解できた。 自分の周りから、極端に空気が少なくなっている。 それに呼吸もしにくくなっている。 このままでは窒息してしまう。 それ以前に全身の血液がなくなって、干からびてしまう! どうすれば、どうすればこの状況から抜け出せる! 自分はまだ、死ぬわけにはいかないのに・・・・・・。 そしてその様子を、ルイズも見ていた。 ルイズは、自分を責めていた。 何も出来ないばっかりに守られて、 それで守ってくれる人が死にかけているのに、それでも何も出来ない自分を。 守られていながら、助けることさえ出来ない自分を。 自分が水のメイジだったなら、二人を治療できた。 火や風のメイジだったなら、アイツと戦えた。 土のメイジだったなら、ゴーレムの一つでも錬金して時間稼ぎが出来た。 なのに自分はそのどれでもない。 自分は「ゼロ」だ。 何の魔法も使えない、役立たずの「ゼロ」。 一週間前のギーシュとの決闘は、自分に何か光が見えたように思えた。 爆発しか起きない「ゼロ」の自分でも、 役立たずの「ゼロ」じゃないんだと思えた。 だが現実は違った。 結局自分は何も出来ない、役立たずの「ゼロ」だった。 自分を助けてくれた人が窮地に陥っても、 それに何の助けも出せない「ゼロ」だった。 ルイズにはそれがどうにも許せなくて、そして悔しかった。 悔しさで涙がこぼれそうになった、その時。 「マスター」 自分の前に立っているホワイトスネイクから声がかけられた。 顔はこちらには向いていない。 「・・・なによ。ホワイトスネイク」 こぼれそうになった涙を拭って、ルイズは不機嫌に聞こえるように答える。 「アノ二人ノタメニ命ヲ賭ケラレルカ?」 「・・・当たり前よ。何でそんなこと聞くのよ」 「今アノ現象ハ、アノ二人ヲ中心ニ起コッテイル。 ソシテ二人ヲ助ケルニハ、マスターモアノ近クヘ行カネバナラナイ。 マスターガラング・ラングラーニ殺サレタナラ、二人ノ努力ガ無駄ニナル。 デアル以上、マスターハ私トトモニ行動シ、私ガ護衛シナケレバナラナイ。 故ニマスターモアノ症状ガ出ル空間マデ行カネバナラナイ。 ・・・ソレデモ助ケルノカ?」 「それでも、よ」 ルイズの言葉に、迷いは無かった。 「・・・キュルケトカイウ女ハマスタートハ不仲ダ。 ソシテタバサトカイウ小娘ハ今日初メテ会ッタバカリ。 命ヲ賭ケルニハ、アマリニモ安イ間柄ダ。 ナノニ、何故ソノ二人ノタメニ命ヲ投ゲ出セル? 親友デモ、血族デモナイ相手ニ何故ソコマデデキル?」 それは、ホワイトスネイクにとって率直な疑問だった。 以前ホワイトスネイクがいた世界 ――かつての自身の本体、プッチ神父とともにあった世界でのこと。 あの世界で戦った男――空条承太郎は、 娘を守るために千載一遇の勝機を捨てた。 そしてその空条承太郎の娘、空条徐倫もまた、 父親の記憶のためにプッチ神父を仕留めるための最大の好機を逃した。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親子だからだ。 互いに血を分けた存在だからだ、とホワイトスネイクは考えていた。 また、スタンドを探して世界中を巡った旅の中で、 プッチ神父を友の仇、親友の仇として襲うスタンド使いもいた。 そうしなれば、プッチ神父にスタンドを奪われることも、 その後にドロドロにされて死ぬことも無かったのに。 なのに彼らはプッチ神父に挑まざるを得なかった。 挑まなければ、自分の心に決着を付けられなかった。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親友だからだ。 互いが互い無くしては生きては行けない存在だからだ、 とまたホワイトスネイクは考えていた。 だが、この状況は違う。 今自分の主人の前で死に掛けている二人の小娘は、 主人の血族でもなければ主人の親友でもない。 なのにこの小さな主人は、そんな二人のために命を賭けると言っている。 何故そんなことが出来る? 何故自分の命をそこまで簡単に扱える? それが、ホワイトスネイクには理解できなかったのだ。 「ソシテ助ケタイ、トイウノハ自己満足カ? ソレトモ偽善カ?」 さらにホワイトスネイクは厳しい問いをぶつける。 「・・・そうかもしれない。 役立たずになりたくないって気持ちが、わたしの中にあるもの。 でもそれは二人を助けない理由には絶対にならない。 だから、助けるのよ。 わたしが助けたいから、助けるの」 それが、ルイズの真摯な思いだった。 確かにキュルケには気に入らないところもある。 タバサって女の子に至っては、助ける義理も何も無い。 それでも、見殺しには出来ない。 だから、助ける。 自分が助けたいから、助ける。 それが、ルイズの答えだった。 「ソウカ」 ホワイトスネイクはそう短く言うと、ルイズに向き直る。 そしてルイズを片手で抱え上げる。 「覚悟ハイイナ?」 「いつでも」 ホワイトスネイクの問いに、ルイズが短く答える。 「承知ッ!」 その答えにホワイトスネイクが力強く応えるッ! そして床を強く蹴り、二人の少女の下へと疾走するッ! 「なッ、なにしてやがるッ!!」 それに驚いたのはラングラーである。 無傷で確保しなければならない相手が自分が作り出した死の空間へと、 何のためらいも無くホワイトスネイクとともに突っ込もうとしているのだ。 このままでは「無傷での確保」は不可能。ならば、阻止するしかないッ! ラングラーは最後の補給を終えたばかりのJJFに腕を構えさせる。 ドンドンドンドンドンドンッ! そしてホワイトスネイクの動きを追うように、 JJFにありったけの鉄クズを撃ち放たせるッ! 計画性のカケラもない行動だった。 だが任務を完遂することの方が、ラングラーには重要だった。 しかしホワイトスネイクは速い。 放たれた鉄クズの半数はホワイトスネイクが通り過ぎた直後の空間を貫き、 ホワイトスネイクにはかすりもせず、 しかし残り半分はホワイトスネイクへと殺到する。 だがホワイトスネイクはそれらを拳で弾き飛ばそうとはしない。 逆にルイズを庇うようにガードを固める。 ドシュシュシュッ! そのホワイトスネイクに、いくつもの鉄クズが突き刺さるッ! その数、4発。 足に、脇腹、腕に、そして頭に着弾し、頭部に命中したものはその一部を吹き飛ばしたッ! しかしホワイトスネイクは止まらないッ! 苦しみもがきながら空中を漂うキュルケとタバサの元へと一直線に駆けるッ! そして、キュルケとタバサを苦しめる症状 ――真空の魔の手が、ルイズにも襲い掛かる。 ルイズの鼻から、突然鼻血が噴出す。 同時に、ルイズの呼吸も苦しくなってくる。 ホワイトスネイクが自身の腕からDISCを抜き取ったのはその瞬間だった。 そして抜き取ったDISCを間髪いれずにルイズの頭部に差し込むッ! 「命令スル。『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』」 ホワイトスネイクが、静かにそう命令する。 と同時に、ルイズの鼻血が止まった。 外気圧と体内気圧の差のために体内から血液が押し出されるのを、 この命令によって防いだのだ。 しかし、ルイズの呼吸が苦しいのは変わらない。 ルイズの周囲に殆ど酸素が存在しない状況を変えることは、 ホワイトスネイクのDISCの命令ではできないからだ。 しかし、血液が全て体外に押し出されてミイラになるよりは、 まだ死ぬのが遅い。 その僅かなタイムラグに、ホワイトスネイクは全てを賭けたのだ。 やがて、酸欠でルイズが意識を手放す。 ルイズは自分の意識が真っ白になっていくのを感じながら、 ホワイトスネイクが、二人を救ってくれることを祈った。 そしてホワイトスネイクは、キュルケとタバサの元へ到達した。 スデに意識を失っていた二人に、ルイズにしたものと同じ命令を差し込む。 後数秒でも遅れていたならば二人の命は無かっただろう。 しかしこれで二人の命はもう1、2分は稼いだ。 あとは・・・ラング・ラングラーを倒すのみ。 そう決意してキュルケとタバサを背負うと、ラングラーのほうへ振り向く。 そして振り向いた先には、驚愕に顔を歪めるラングラーがいた。 「バカな・・・真空の中で・・・何故・・・血を吹き出さねえ・・・。 ホワイトスネイク・・・テメー一体・・・何を、しやがった・・・」 「何ヲシタカ・・・カ。ソレヲ貴様ガ知ル必要ハナイナ。 何故ナラ貴様ハココデ死ヌカラダ・・・ラング・ラングラー。 貴様ノ無重力ノ能力ガ作リ出シタ真空デナ・・・・・・。」 そう言い終わるや否や、ラングラーに向けて突進するホワイトスネイク。 真空の発生源であるキュルケとタバサはホワイトスネイクに担がれているッ! つまり、この状況は―― 「テメーッ! オレが作った真空で、オレを攻撃する気かッ!」 ホワイトスネイクの目論見を理解したラングラーは、すかさず後方に下がる。 だがすぐに壁に背がぶつかる。 もう後ろには下がれない。 正面から迫るホワイトスネイクは、 自分を真空の範囲に捉えるまであと数歩の位置。 ならば―― 「ジャンピン・ジャック・フラァァァッシュッ!!」 咆哮とともにJJFがラングラーの正面に回りこむ。 そしてコンマ数秒単位で腕を構え、ホワイトスネイクへと向けるッ! 「くらえッ!!」 ドンドン! そして、その腕から鉄クズを撃ち放つ。 だが狙いは甘かった。 大半はホワイトスネイクに当たらず、その周囲へと逸れていった。 ラングラーが一瞬抱いた真空への恐怖が、 その照準を正確なものにしなかったのだ。 だが、3つ。 それだけの数の鉄クズは、ホワイトスネイクへと向かった。 しかもその全てが、ホワイトスネイクへの直撃コース。 だがホワイトスネイクは避けようともしない。 自分を敵の弾丸が貫くのを承知で、 真正面からラングラーのいる方向へと突っ込むッ! ドシュシュッ! そしてホワイトスネイクの胴体を、3つの鉄クズが撃ち貫く。 ホワイトスネイクの、膝が落ちる。 勝った、とラングラーは感じた。 だが、ホワイトスネイクは止まらなかった。 落ちかけた膝を無理やり引き上げ、床を蹴り、 レスラーがタックルをかけるようにラングラーへと襲い掛かるッ! ホワイトスネイクはスタンドである。 そして今のホワイトスネイクは、 本体の状態に一切左右されないスタンドであるッ! そのため人間ならば致命傷の攻撃でも、まだ十分に活動可能ッ! 「バカなッ! こいつ、何故止まらないッ!?」 それを知らないラングラーは驚愕のままにタックルをモロに食らい、 壁にたたきつけられる。 JJFで防御する余裕すらなかった。 そして、真空の範囲にラングラーが入った。 真空が、ラングラーに襲い掛かるッ! 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 時間の経過のために、より強力になった真空がラングラーを襲う。 そして、ラングラーの体の組織を次々と破壊してゆくッ! (マ・・・マズイ・・・ぞ・・・・・。このままじゃあ・・・オレが・・・ヤバイッ! 壁に押さえつけられた・・・この体勢じゃあ・・・逃げられねえッ! くッ・・・こうなったらッ!!) 完全に追い詰められた状況ッ! そしてラングラーが、そこから脱出を図るッ! 「ジャンピン・ジャック・フラッシューーーーーーーーッ!」 ラングラーの絶叫とともに、JJFが部屋の壁に拳のラッシュを叩き込むッ! 追い詰められ、生へとしがみつこうとする精神によって昂ぶり強化された拳は、 壁を一瞬にしてベコベコに破壊し、そしてひび割れさせていくッ! そしてラッシュが始まってから一秒経ったか経たないか、それだけの時間で、壁に大穴が空いた。 そしてラングラーの体が、その後ろから押さえつけるホワイトスネイクのパワーに押され、ルイズの部屋から空中に放り出された。 その瞬間。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ解除ォーーーーーーーーーーーーーッ!!」 ラングラーの絶叫とともに真空が解除されるッ! そして周囲の気圧は突然正常に戻り、ホワイトスネイクとラングラーの身体は、 二人を取り囲んでいた真空地帯へ吹き込んだ突風に、 木の葉のように吹き飛ばされるッ! ラングラーの身体は上空へ吹き飛ばされ、 ホワイトスネイクの身体は地上へと、一気に叩き落されるッ! しかしホワイトスネイクは抱きかかえる3人の身体を手放しはしないッ! 手放す前に、やらねばならないことがあるからだ。 (解除・・・ダトッ!? マズイゾッ! コノママデハ、 外気圧ニマスタータチノ体ガ潰サレルッ! ソノ前ニッ!) ホワイトスネイクは素早くルイズの頭部から命令のDISCを抜き取る。 そしてキュルケ、タバサの頭部からも命令のDISCを抜き取り、3人の体内気圧を正常に戻す。 だがまだ油断は出来ない。 地上が、眼前に迫っている。 今の加速した状態で地面に叩きつけられれば、並の人間はただではすまない。 ましてや今の状況では重傷を負った人間が二人もいるのだ。 ホワイトスネイクが手を離し、勢いのままに地面に激突したならば、間違いなく死ぬ。 ホワイトスネイクは何も持たない状態なら自由に空中を移動できる。 そして軽いものならば抱えたままで空中を移動できる。 だが今ホワイトスネイクが抱え、背負うのは三人の人間。 抱えたまま空中に留まるのは不可能だ。 そうである以上、着地はホワイトスネイクがやらねばならない。 しかしホワイトスネイクの両足はJJFの射撃でダメージを受けている。 着地の衝撃に耐えられるかどうかは怪しい。 出来るか。 ホワイトスネイクは現在の自分の状況に相談し、そして覚悟を決めた。 その直後、ホワイトスネイクは3人を抱えたまま、地面に着地した。 そして着地の衝撃がホワイトスネイクの両足を襲う。 無重力解除による風圧、そして人間3人分の重力が生んだ衝撃が、ホワイトスネイクの足をズタズタに破壊してゆく。 だがホワイトスネイクは膝を突かない。 膝を突かず、衝撃に耐え、着地したままの状態を保ち続ける。 そして、耐え切った。 そのことを実感すると、 ホワイトスネイクは3人の身体をそっと地面に横たえた。 ホワイトスネイクの身体に新たな衝撃が走ったのは、その瞬間だった。 衝撃の発生源は腹部。 そこに目を向ける。 自分の腹部から、握り拳が突き出ているのが見えた。 そして、やられた、と思った。 JJFの拳が、背後からホワイトスネイクの身体を貫いていた。 空中に飛ばされたラングラーは、手足の吸盤で校舎の壁に張り付き、 風圧に耐えていた。 そして耐え切ると、間髪いれずに空中からホワイトスネイクの背後に迫った。 落下の音、衝撃は吸盤で吸収し、ホワイトスネイクに気づかれることは無かった。 そして、あの一撃をホワイトスネイクに叩き込んだ。 ホワイトスネイクの膝が、がくりと落ちる。 もはや両足で立つこともできない。 そしてボロボロの両手では、手刀を使うことも出来ない。 ホワイトスネイクの身体は、もう戦える身体ではなかった。 「これで・・・テメーは・・・もう・・・戦えねえ。 あとは・・・ガキを・・・頂いていく・・・だけだ。 だが・・・・・・その前に・・・テメーは破壊する。 オレを散々ナメてくれたテメーを・・・生かしておくつもりはねえッ!」 そう言いつつ、JJFの拳をホワイトスネイクの腹から引き抜くラングラー。 それと同時にホワイトスネイクの体が崩れ落ちる。 ダメージは、あまりにも大きかった。 これ以上戦えぬほどに、これ以上立つこともできぬほどに。 そして床に倒れこむホワイトスネイクの頭部に、ラングラーはJJFの拳の狙いを定める。 「これで終わりだッ! 今度こそ、ここで死ねッ!!」 そして、JJFの拳が、ホワイトスネイクの頭部へ振り下ろされる。 「勝ったッ!!」 ラングラーが今度こそ勝利を確信し、叫んだ。 ドグシャアッ! ドシュンッ! 直後、二つの音が交錯する。 JJFの拳がホワイトスネイクを破壊する音、 そしてそれとは別の音が校庭に響いた。 そして視界が真っ暗になる。 何だ? とラングラーは一瞬首を捻りかける。 捻りかけて、理解した。 自分の額に、あの忌々しいDISCが突き刺さっている。 そのDISCに目隠しされているのだ、と。 そしてそうだ。 「これ」はさっき見ていた。 これはホワイトスネイクが、あの三人のガキの頭から抜き取ったものだ。 ホワイトスネイクはこのDISCで、自分の真空から三人を守っていた。 しかし、だとしたらその効果は一体・・・。 「ソノDISCノ効果・・・教エテヤロウ」 「!!??」 バカな!? 何故ホワイトスネイクが生きている!? ヤツの頭部は、自分のJJFで完全に破壊したハズ。 手ごたえも十分にあった! …いや、本当にそうだったのか? 本当に、自分が破壊したのはヤツの頭部だったのか? インパクトの瞬間、オレはヤツのDISCで目隠しされたんだ。 だとしたら、そのときに・・・まさか・・・・・・。 「『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・ダ。 ソレデ何ガ起コルカ・・・・・・貴様ニハ・・・スグ分カル」 暗闇の中で、ホワイトスネイクがこちらの意思とは関係ナシに喋り続ける。 『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・だと? …何だとッ!? じゃあまさか、これからオレはッ!? 「感ヅイタヨウダナ・・・。貴様ノ体ハコレカラ・・・外気圧ニ潰サレテ、 ペシャンコニナル。 セイゼイソレマデノ間、残サレタ命ヲ楽シメ・・・・・・」 その言葉の直後、ラングラーの体に異変が起こる。 まず、息が出来なくなった。 正確には、肺から空気が一気に押し出されたッ! そして破壊はさらに進行するッ! ラングラーの体はあっという間に圧縮されていき、 ラングラーの全身の穴という穴から血が噴出すッ! 「ガッ・・・ゴボ・・・・・・ガボ、ゴッ・・・・・・」 声にならない声を上げ、ラングラーが呻く。 呻きながらも、JJFに指示を出す。 自分をこんな目に合わせた奴らを、せめて一人でも道連れにするために・・・。 だが、それもすぐに止められた。 JJFの腕が、動かない。 ホワイトスネイクがJJFの両腕をガッチリと捕まえ、その腕輪の照準が三人の少女にそして自分へと向かぬよう、 そして照準が誰もいない上空へ向くように押さえ込むッ! 「ア・・・アガ・・・ゴバ、ガ・・・ガボバ・・・・・・」 しかしラングラーは止まらない。 JJFへの指示を止めはしない。 そして主人のダメージに従ってボロボロとその身を崩壊させていくJJFは、 主人の命令に忠実に、最後の足掻きを見せたッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!! それは戦いの序盤でホワイトスネイクに対して行った、マシンガンのような集中射撃。 JJFはそれが自分の最後の輝きであるかのように、ホワイトスネイクに押さえつけられたまま、上空に向かって撃ち続けた。 今までで最大の威力を持った、鉄クズの射撃だった。 撃ち放たれた無数の鉄クズはその大半が校舎に当たり、 そしてそれらを抉り、無数のひびを入れた。 巨大なゴーレムの一撃ですら破壊できない壁に、目に見える形で損傷を与えた。 そして残弾が完全に尽きたのと同時に、 ラング・ラングラーは全身の血を外気圧に絞り取られて絶命した。 ジャンピン・ジャック・フラッシュの姿は、もうその傍らには無かった。 「終ワッタ・・・・・・カ・・・・・・」 ラングラーが死んだのを確認し、ホワイトスネイクはそう呟いた。 そして周りを見回す。 見回して、ひどい有様だと思った。 周囲一体がラングラーの血で染まって真っ赤になっている。 ルイズ、キュルケ、タバサの三人も例外ではない。 全員の衣服が、血で真っ赤になっていた。 もっともキュルケとタバサの衣服は彼女達自身の血でスデに赤く染まっていたが。 (シカシ・・・マズイナ。今ノ私ハ、ホトンド行動不能。 ソレニ助ケヲ呼ブコトモママナラナイ。 マスターハマダ大丈夫ダガ・・・コノ二人ハ応急処置ガ必要ダ。 クソッ・・・・・・ドウスル・・・・・・?) 自身も再起不能寸前でありながらも、冷静に状況を判断するホワイトスネイク。 その時―― 「ルイズの使い魔君ッ! 君の命がけの行動、僕は敬意を表するッ!!」 バカみたいにでかくて、それでいて妙に気取った声が聞こえてきた。 どこか聞き覚えがあった声だ、と思いながらホワイトスネイクがそちらを見る。 「ちょっとギーシュ! あんた分かってるの? あいつはあなたを殺しかけたようなやつなのよ?」 「黙っていてくれモンモランシー。僕は今猛烈に感動しているんだ!」 声の主はやっぱりギーシュだった。 そしてその後ろから、モンモランシーがギーシュを引きとめようとしている。 しかしギーシュはそれを引きずるようにしてこっちにやってきた。 「・・・・・・何シニ来タ」 ジト目でギーシュを見ながら言うホワイトスネイク。 「そんなことを連れないことを言わないでくれ、使い魔君。 僕は君の命がけの戦いの一部始終を見ていた。 それで・・・感動したんだ! 不届き者から三人のレディーを守り、 満身創痍になりながらも勝利した君の姿に! そして実感したよ! 君と僕は似たもの同士だったんだ! 君は一週間前のあの日、僕と決闘したろう? それが何故なのか、ずっと気になっていたんだ。 でもそれが分かったよ! 君は君の主人であるルイズのために、 レディーのために戦ったんだね! あのメイドを僕の勝手から守ったのも、 レディーを守るという君の新年に基づいたものだったと分かったんだよ! はっはっは! そんな神妙な顔をしないでくれ! 何も言わずとも分かる! 君のその行動こそが君の精神のあkガボゴババゴボ・・・・・・」 延々と喋り捲っていたギーシュが、突然彼を包み込んだ水によって黙らされた。 やったのはモンモランシーである。 しかしギーシュもなんと言うか、相当にアレだ。 一週間前に自分を危うく殺すところだった相手にここまでフレンドリーになれてしまうとは。 お調子者というべきか、能天気というべきか、とにかく色々と心配だ。 そしてギーシュを黙らせたモンモランシーがその前に出て、 じろりとホワイトスネイクをにらむ。 ホワイトスネイクも、それを正面から見返す。 「・・・あんたがギーシュに決闘でしたこと。私は忘れて無いわ。 でも・・・・・・」 そういって、地面に横たわる三人に目を向けると、短くルーンを唱える。 すると、キュルケとタバサの傷が、溶けるようにして浅くなっていく。 水のメイジにしか使えない、「治癒」の魔法だ。 ホワイトスネイクは驚いてモンモランシーを見る。 「この三人がケガをしてるのは別の話よ。 応急処置をしてくれる人を探してたんでしょ? ・・・だったら私がしてあげるわよ。 この三人のケガはどれも致命傷じゃないし、 水のラインメイジの私なら応急処置が出来る。 ただ、キュルケとこの青髪の女の子は相当に弱ってるから、 魔法薬での治療が必要になるけど。 ・・・別に、あんたがしたことを許したわけじゃないんだからね。 勘違いしないでよ」 「・・・覚エテオク」 ホワイトスネイクがそれだけ言うと、 モンモランシーはぷい、とそっぽを向いてギーシュのほうへ戻っていった。 そのギーシュが、何やらゴボゴボ言っている。 「どうしたのよ、ギーシュ?」 「ばべ! ばべぼびべぐべぼ!」 「・・・何言ってるかわかんないわよ、ギーシュ」 「ばばらばればぼ! ぼぼばび! びびぼぶびぼごべば!」 モンモランシーの魔法で水攻めにされたまま、 ギーシュが指を差しながら何か言っている。 だがモンモランシーには何が言いたいのか全く理解できない。 かろうじて、何がしたいかが理解できたホワイトスネイクが、 ギーシュが指差す先を見ると―― 「・・・・・・何ダ、アレハ?」 そこには、全長30メイルは下らない、巨大なゴーレムがいた。 To Be Continued...